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大阪高等裁判所 昭和61年(う)597号 判決 1990年1月30日

本店所在地

京都市南区上鳥羽南中ノ坪町一九番地

京浜工事株式会社

右代表者代表取締役

佐藤好夫

本籍並びに住居

京都市南区吉祥院中河原里北町四一番地

会社役員

佐藤好夫

昭和九年一月六日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、昭和六一年二月二七日京都地方裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 和田博 出席

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

被告人京阪工事株式会社(以下、「被告会社」という。)及び被告人佐藤好夫(以下、「被告人」という。)の本件各控訴の趣意は、被告会社及び被告人の弁譲人大槻龍馬作成の控訴趣意書(第一点の五及び第二点を除く。なお、弁譲人は、控訴趣意書第一点中、事実誤認ないし刑事実体法規の解釈適用の誤りがあると主張するのは、第一点の二、外注費((原判示事実認定等についての補足説明一。以下単に原判示一といい、他の各費目についてもこの例による。))の8、同九、完成工事原価((原判示八))、同一〇、昭和五〇年分未成工事支出金からの振替計上((原判示九))における法人税ほ脱の犯意に関する点のみであって、その余の第一点中の主張はすべて事実誤認の主張であると釈明した。)、「控訴趣意補充補正書(第一回)」(二を除く。なお、弁譲人は、一の2でいう審理不尽は控訴理由として主張する趣旨ではない、また検甲一三二の二又は三と表示したのはすべて検甲一三二の誤りであるから訂正すると釈明した。)及び「弁論要旨」各記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官八木廣二作成の答弁書(第二を除く。)及び検察官和田博作成の「弁論要旨」各記載のとおりであるから、これらを引用する。

第一控訴趣意第一点 事実誤認ないし法令解釈適用の誤りの主張について

一  外注費(原判示一)について

論旨は、要するに、原判決が架空外注費として認定したものは、いずれも実額であり(ただし、松本鋼機分及びエスケー工事・光映技術分を除く。)、原判決がこれらを架空外注費と認定したのは、それぞれ事実を誤認したものであり、また松本鋼機分の架空未成工事支出金一七五万円についてそれが事務担当者の単純な記帳上の誤りであって、ほ脱犯の対象から除外されるべきものであるのに、原判決が、これを被告人の指示によりほ脱目的のもとに計上されたものと認め、かりにその計上が事務の単純な誤りによるものであったとしても、被告人に法人税ほ脱の概括的認識があったことが明らかである以上、この点について故意の成立を否定することができないと判断したのは、事実を誤認したものか、あるいは法令の解釈適用を誤ったものであり、更に、エスケー工事・光映技術分合計三五〇万円は、被告会社が君津市区画整理事業組合から整理事業に関連する工事を光映技術の仲介によって受注できるように依頼した際の報酬の前渡金であって、右工事の受注が不可能になってもその返還を求め得る性質のものではなく、工事受注のための経費に該当するのに、これを架空外注費と認めた原判決は事実の認定を誤ったものである、というのであると解される。

そこで、記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を参酌して、以下のとおり判断する。

1  架空外注費のうち原判示一の1、3ないし8(その全額が実額であると主張するもの)について

所論は、原判決が、工事未払金台帳(昭和五〇年三月期、すなわち同四九年四月一日から同五〇年三月三一日までの事業年度((以下、昭和四九年度ともいう。))のもの、当裁判所昭和六一年押二二四号符号7、以下、押収番号を示す場合、押番号はすべて同一であるから、符号番号のみを記載する。)及び工事未払金(外注)二綴(昭和五一年三月期、すなわち同五〇年四月一日から同五一年三月三一日までの事業年度((以下、昭和五〇年度ともいう。))のもの、符号8((物件自体に8の1、8の2と表示されているもの))、以下、符号7と同様、工事未払金台帳と表示することがある。)に、下請先に対する未成工事支出金として計上されているものが架空のものであるか否かについて、それらの未成工事支出金が各外注台帳(符号10((昭和五〇年度のもの))、11((昭和四九年度のもの))、これらは、いずれも下請支払明細表綴であるが、原審以来証拠の標目及び押収物件の標目として、外注台帳という名称が使用されているので、本判決においても、証拠の標目を示す場合はこれに従うこととする。)に記載されているかどうか、その計上後、特段の事情がないのにその支払いが遅れていないかどうか、という点を重要な基準としてこれを判断し、原判示一の1、3ないし8の各外注加工費を架空であると認めたのは、すべて事実誤認であり、原判決がそのように事実を誤認した根本原因は、各外注台帳と工事未払金台帳との関係を十分に理解していない点に存すると主張する。すなわち、被告会社においては、業務課で作成される下請支払明細表(外注台帳)に、各外注先からの請求金額と、その時点で現場監督によるチェックを経て支払い相当とされた支払金額とが記入され、経理課で作成される工事未払金台帳には、下請支払明細表の支払金額が請求金額であり、かつ支払金額であるように記載されるため、外注先からの請求金額と支払金額との差額である未払金額は、外注台帳によってのみ把握できるようになっているところ、被告人は、毎事業年度末において、各下請業者と話し合って改めて未払金額を確定し、これを工事未払金台帳のみに未成工事支出金として計上した上、翌事業年度に支払うことにしていたのであるから、このようにして計上された未成工事支出金は、外注台帳に記載されていなくとも実際に支払われているのであり、原判決は、これを架空外注加工費と誤認したのである、というのである。

しかしながら、関係証拠によれば、原判決が認定しているように、被告会社の下請先に対する外注加工費の支払いは、毎月二〇日締切りで、出来高に応じて下請先から下請代金を請求させ、これを現場の責任者において査定した後、業務課において前渡金等を差し引いて支払額を決定し、翌月一〇日経理課においてその支払いをすることとなっており、したがって、支払決定額が請求金額をかなり下回る場合も多いこと、業務課においては、毎月各下請先ごとにその請求金額と支払金額等を明らかにするための外注台帳(下請支払明細表)を作成しており、同課で決定された下請代金の支払いに関する事項は、すべて外注台帳に記帳される仕組みになっていたこと、被告会社の下請先は、被告会社から支払われる代金によってその経営を維持している零細業者が多く、これらの下請先に対する代金は、おおむね翌月一〇日に支払われ受領されており、二か月以上も支払われずに放置される例はほとんどなかったこと、被告会社における架空外注加工費の計上は、昭和四九年三月期の決算に際して、被告人が、未払いの架空外注加工費を計上して利益を少なくし、交際接待費などに使用する裏金を作るように指示したことから始まり、昭和四九年度及び同五〇年度においては、会社の規模を大きくするため多額の交際接待費等を注ぎ込んだため、主として期末において、中には期中においても多額の架空外注加工費を計上するに至ったこと、右裏金は簿外の金銭出納帳(符号1、2)によって管理されていたこと、以上の事実が認められるとともに、所論のいうように、下請先の要求により支払金額の追加が合意され、あるいは工事注文者の単価の遡及的値上げを見越した支払金額の増額が約される事例があったとしても、それが広範に存在したことを窺わせる証跡はなく、そのようにして決定された支払金の支払が長い間滞っているというような事態は、ほとんどあり得ないと考えられるのである。そうだとすれば、原判決が、工事未払金台帳に下請先に対する未成工事支出金として計上されているものが架空のものであるか否かを判断するについて、それが外注台帳に記帳されているかどうか、特段の事情がないのに、工事未払金台帳に計上後その支払いが遅れていないかどうかを重要な基準としたのは相当であって、当裁判所もこれを首肯することができる。そこで、以上説示したところを前提として、以下各下請先ごとに、原判決の事実認定の当否を判断する。

(一) 坂本組こと坂本勇の昭和四九年度分一〇〇万円について

所論は、外注台帳によれば、坂本組関係の昭和四九年度(同四九年六月一〇日以前の分は不明)の請求金額と支払金額との差額は一四万五〇六〇円であるのに対し、工事未払金台帳に昭和五〇年三月三一日付で未成工事支出金として一〇〇万円が計上されているが、この一〇〇万円は、被告人が坂本勇との間において昭和五〇年三月末における請求金額と支払金額との差額の調整精算について話し合った上、未払金額と決めたものである、右差額一四万五〇六〇円に比べると多額ではあるが、資料が欠けている昭和四九年五月分、六月分にも差額があったものと推定されるので不自然ではなく、右一〇〇万円は、架空外注費ではなく、その実額であると主張し、原判決が、右一〇〇万円のうち七五万円については、坂本組から請求があり支払決定のあった一二九万五〇〇〇円のうち七五万円を差し引いた五四万五〇〇〇円のみを工事未払金台帳に記載し、二五万円については、雑収入二五万円を計上することによって帳簿上の処理をしたと判示しているのに対し、工事未払金台帳の借方に記載されている右一二九万五〇〇〇円は、外注台帳の昭和五〇年六月一〇日付支払金額七五万円(神戸建設現場)及び五四万五〇〇〇円(玉井企業体)の合計一二九万五〇〇〇円を支払ったものであり、雑収入二五万円は右未成工事支出金一〇〇万円と関係がない、というのである。

しかしながら、関係証拠によると、工事未払金台帳の坂本勇の昭和五〇年三月三一日の欄の貸方に未成工事支出金一〇〇万円の記載があり、この一〇〇万円を含む一七四万円が次期繰越となっていること、他方、外注台帳には右一〇〇万円についての記載がないこと、外注台帳には、昭和五〇年六月一〇日付で所論の指摘するとおり一二九万五〇〇〇円の支払決定があるが、工事未払金台帳には同年五月三一日未成工事支出金・工事代として貸方に五四万五〇〇〇円(支払決定があった七五万円と五四万五〇〇〇円合計一二九万五〇〇〇円のうち七五万円を差し引いた額)、同年九月一一日雑収入として借方に二五万円の各記載があることが認められる。

以上の事実に照らし、関係証拠を検討すると、工事未払金台帳の昭和五〇年六月一〇日の借方に記載されている一二九万五〇〇〇円は、所論のいうとおり、外注台帳に同日付で記載されている同額の支払金額(二口を合計したもの)を支払ったことを示すものであるが、工事未払金台帳のこれに対応する貸方の記載としては、そのうちの一口五四万五〇〇〇円が記載されているのみであって、他の一口七五万円の記載はなく、別に雑収入二五万円を借方に計上することによって、工事未払金台帳の同年三月三一日貸方に記載された未成工事支出金一〇〇万円の帳簿上の処理をしたことが明らかであり、これに加えて右一〇〇万円についての記載が外注台帳にないことを併せ考えると、右一〇〇万円を架空外注加工費であると認定した原判決の認定は相当である。所論に沿う被告人の供述は、これを裏づける資料もなく、右帳簿の記載状況に照らしても到底信用できず、右一〇〇万円を全額実額であるという所論は、採用できない。

(二) 三京工業所こと西沢一郎の昭和四九年度分一五〇万円について

所論は、要するに、外注台帳によれば、三京工業所関係の昭和四九年度の請求金額と支払金額との差額は一四七万六三一〇円であり(外注台帳に支払金額のみが記載され、これに対応する請求金額の記載のないものは、当審証人望月弘の証言によって支払金額と同額の請求があったものとして算出した。)、昭和五〇年度の請求金額と支払金額との差額は、二一八万九九七四円であるところ、被告人は、西沢一郎との間において、右各差額の調整精算について話し合い、昭和四九年度分について未払金一五〇万円、同五〇年度分について未払金一五〇万円をそれぞれ認めた上、一〇七万六一六〇円の値引きを認めさせたのであって、昭和四九年度の一五〇万円は、原判決のいうように架空外注加工費ではなく、全額その実額である、というのである。

しかしながら、関係証拠によると、工事未払金台帳の昭和五〇年三月三一日の欄の貸方に未成工事支出金として、一二〇万四八七〇円、三万三〇〇〇円の記載に続いて、五〇万円と一〇〇万円の二口合計一五〇万円の記載があり、二七三万七八七〇円が次期繰越となっているが、外注台帳にはこの合計一五〇万円の二口について対応する記載はないこと、外注台帳には、昭和五一年一月一〇日四二万三八四〇円(九件の工事代の合計)の支払金額の記載があるが、工事未払金台帳には、これに対応する記載はなく、同年三月三一日一五〇万円から右金額を差し引いた一〇七万六一六〇円が雑収入・値引として借方に計上され、別に貸方に未成工事支出金として一五〇万円が計上されていること、そして、右昭和五一年三月三一日計上の一五〇万円については、西沢一郎が昭和五一年三月五日ごろ被告人の依頼により被告会社の佐野市郎に渡した白地の領収書を用いて、同年八月一二日付で領収書が作成されていることが認められる。右事実に加え、西沢一郎が大蔵事務官に対して、昭和四九年度において計上されている右一五〇万円は実際に下請けした工事代金ではなく被告会社に請求できる性質のものではないと供述していることを併せ考えると、右一五〇万円が架空の外注加工費であり、右に認定したように、工事未払金台帳の貸方に工事代金四二万三八四〇円を記載せず、一方で一〇七万六一六〇円を雑収入・値引としてその借方に記入することによって帳簿上の処理をしたことが明らかである。(工事未払金台帳の借方に実際に支払われた工事代金四二万三八四〇円が記入されていない((その記入によって同帳簿の記載は完全な整合性を備える。))のは、何らかの事情に基づく脱漏と考えられる。)。所論に沿う被告人供述は、西沢の供述その他関係証拠に照らして信用できず、他に右昭和四九年度の一五〇万円が架空の外注加工費であることに疑いを抱かせる証拠はない。所論は採用できない。

(三) 堤組こと堤梅雄の昭和四九年度分三五五万円及び同五〇年度分一六六五万円について

所論は、原判決がこれらを架空外注加工費と認定していることに対し、それらは、いずれも架空外注加工費ではなくて、その実額であると主張する。その論拠として、堤組に対する昭和四九年度分の外注加工費については、請求金額に対して七九九万二九一〇円少ない支払いがなされ、昭和五〇年度分のそれについては、請求金額に対して一九八四万二二八七円少ない支払いがなされていたところ、被告人は、堤梅雄との間において、昭和四九年度分については、同五〇年三月末ころ差額について話し合い、三五五万円を未払金とすることに決めたのであり、昭和五〇年度分については、工事未払金台帳の貸方に、未成工事支出金として、原判示のとおりの記載があるけれども、前年度において八〇〇万円弱の差額を三五〇万円で話をつけ、当年度においても、毎月請求金額より少ない支払いが続けられ、その差額が前記のような多額に達していた堤組との関係においては、工事未払金台帳に未成工事支出金として右のような記載がなされたとしても、直ちにこれを架空外注加工費ということはできない、というのである。

しかしながら、関係証拠によれば、堤組との関係では、工事未払金台帳に、昭和五〇年三月三一日の貸方に、未成工事支出金として一五〇万円と二〇五万円の二口合計三五五万円の記載があり、外注台帳にこの二口に対応する記載はないこと、また、昭和五〇年七月三一日の貸方に、未成工事支出金として、八六五万円、一五〇〇万円の二口合計二三六五万円が、同五一年一月六日の貸方に、同じく三〇〇万円が計上されており、右二三六五万円及び三〇〇万円は外注台帳に記載されていないこと、並びに以上の各未成工事支出金について、それぞれ原判決が認定しているとおりの帳簿上の処理がなされていることが認められる。そして、右認定事実に更に関係証拠を併せて考察すると、原判示昭和四九年度分三五五万円及び昭和五〇年度分のうち一六六五万円の各未成工事支出金が架空外注加工費と認められることは原判決の説示するとおりである。被告人の供述中には、所論に沿うような話し合いにより未払金が決められたという趣旨の供述があり、また原審証人堤梅雄の供述中にもそれに沿うかのような部分があるが、原判決の指摘するように、その計算の具体的根拠は明らかでなく、それに沿うように帳簿上の処理がなされるなど経理上の徴憑もなく、債務として認めるにはあまりにも不確定であって、到底右認定を左右するに足りない。所論は、採用できない。

(四) 株式会社旭基礎工業(以下、「旭基礎」という。)の昭和四九年度分二五〇万円及び同五〇年度分二五〇万円について

所論は、原判決が右各二五〇万円を架空外注加工費であると認定しているのに対し、右はいずれも実額であると主張し、旭基礎に対する昭和四九年度分の外注加工費は請求金額に対して六七万六九〇〇円少ない支払いがなされ、同五〇年度分のそれは、請求金額に対して二三七万五八〇〇円少ない支払いがなされていたところ、被告人は旭基礎との間において、右各差額の調整精算について話し合った結果、右各年度について各二五〇万円を支払うことで妥結し、これを工事未払金台帳の貸方に各未成工事支出金として計上したものである、というのである。

しかしながら、関係証拠によると、工事未払金台帳の旭栄興業名義分の昭和五〇年三月三一日の欄の貸方に未成工事支出金二五〇万円の記載があり(旭栄興業口座への誤記訂正として、同年一〇月三一日付で旭基礎の口座に転記されている。)、外注台帳にはこれに対応する記載はないこと、そして工事未払金台帳の同年一二月三一日の旭基礎の口座の貸方に、支払決定のあった四二八万七六〇〇円から二五〇万円を差し引いた一七八万七六〇〇円のみを未成工事支出金として計上し、その余の金額は計上されていないこと、右二五〇万円の未成工事支出金に対応する旭基礎の下請の工事は存在しないこと(旭基礎は被告会社から東海道線草津圧入工事のため草津BOR工事を下請けしたことがあるが、その工事については昭和四九年四月一〇日一〇五万円の支払いを受けて決済し、その後、右圧入工事に関して、追加工事や補修工事をしたり、代金請求をしたことはない。)、昭和五一年三月三一日付で工事未払金台帳に旭基礎に対する未成工事支出金として、二〇〇万円、五〇万円の二口合計二五〇万円が計上されているが、右二五〇万円についても外注台帳にその記載がないこと、右二五〇万円は昭和五〇年度分の決算に際して、架空計上を指示したのに基づいて計上されたものであることが認められる。そして、右事実によれば、右未成工事支出金は架空であることは明らかである。所論のいう未払金支払いの交渉妥結を認めるに足る証拠はなく、また被告人の供述する東京竹の塚の工事の経緯を検討しても、前記各二五〇万円を架空外注費とした原判決の認定を左右するに足るものはない。所論は採用できない。

(五) 池田組こと池田武雄こと張武雄の昭和四九年度分一〇〇万円及び同五〇年度分五〇〇万円について

所論は、原判決がこれらを架空外注加工費と認定していることに対し、これらはすべて外注加工費の実額であると主張し、その根拠として、池田組に対する昭和四九年度分の外注費は、請求金額に対して一〇八万〇六三一円少ない支払いがなされ、同五〇年度分の外注費は、請求金額に対して四七四万九六九四円少ない支払いがなされていたところ、被告人は、池田武雄との間において、右各差額の調整精算について話し合った結果、昭和四九年度分について一〇〇万円、同五〇年度分について五〇〇万円をそれぞれ工事未払金とすることで妥協が成立したものである、というのである。

関係証拠によると、工事未払金台帳の昭和五〇年三月三一日の欄の貸方に、未成工事支出金・工事代として、四九〇万九三一〇円に続いて、一〇〇万円の記載があり、外注台帳にはこの一〇〇万円に対応する記載のないこと、外注台帳には、同年一〇月一一日付で、池田組から近畿幹線工事代金三七二万円と三万九〇〇〇円の請求があり、前者については一〇〇万円、後者については三万九〇〇〇円全額が保留となり、前者のうち二七二万円が支払額として記帳され、更に同一工事について別欄に工事未払金一〇〇万円が支払額として記帳(右保留分に該当するものと認められる。)されているのに対し、工事未払金台帳には、これに対応するものとして同年九月三〇日欄の貸方に二七二万円のみを記帳し、帳簿上の処理をしていること、また、昭和五一年三月一日工事未払金台帳の貸方に池田組に対する未成工事支出金として二九三万円及び二〇七万円の二口合計五〇〇万円が記帳されていること、右五〇〇万円については外注台帳に記載がないこと、右五〇〇万円は、池田組が被告会社から下請した枚方第二近幹第二東部ライン工事について、池田武雄が契約金額では採算がとれないとして、被告人にその増額方を申し入れたところ、被告人から支払えるかどうか分からぬが、一応請求書を出してくれと言われて右金額の請求書(二通)を被告会社に差し出したこと、しかし、被告会社では、右のとおり未払金台帳の貸方にこれを記帳したが、池田組に対してはその支払いをしていないこと、以上の事実が認められ、これらの事実によれば、右昭和四九年度分一〇〇万円及び同五〇年度分五〇〇万円について、これらをいずれも架空外注加工費であるとした原判決の認定は正当であるということができる。当審における事実取調べの結果をも含めて関係証拠を検討しても、所論のいうように、被告人と池田武雄との間において、右各金員を工事未払金とする旨の合意が成立した事実はないと認めざるを得ない。所論は採り得ない。

(六) 並木組こと並木輝人の昭和五〇年度分五九九万八六〇〇円について

所論は、右全額が実額であると主張し、その根拠として、並木組に対する昭和四九年度分の外注費は、請求金額に対し二二九万六二三〇円少ない支払いがなされ、同五〇年度分の外注費は、請求金額に対し四七三万七三七一円少ない支払いがなされていたところ、被告人は、昭和五一年三月末ころ、並木組との間において右差額の精算調整について話し合った結果、五九九万八六〇〇円を未払金とすることで妥協が成立し、これを計上した、というのである。

関係証拠によると、工事未払金台帳の並木組に関する昭和五一年三月三一日の欄の貸方に、未成工事支出金・単価改定分九三万三二〇〇円の記載に続いて、未成工事支出金・工事代五九九万八六〇〇円の記載があり、外注台帳にはこれに対応する記載がないことが認められる。これに加え、並木輝人の大蔵事務官に対する質問てん末書によれば、同人は被告会社からこれまでに六〇〇万円という大金を一回に貰ったことはなく、昭和五〇年と昭和五一年の各四月に被告会社の業務か経理の人から頼まれて、住所・氏名をボールペンで書き、印鑑を押し、工事内容と金額とを鉛筆で書き、工事期間を空白にした請求書を渡したがこの請求書により請求した金額は一銭も貰っていないことが認められることに照らすと、右五九九万八六〇〇円が架空であることは明らかである。所論は採用できない。

(七) 大平組こと大平静雄の昭和五〇年度分二〇六万円について

所論は、右全額が実額であると主張し、その根拠として、大平組に対する昭和五〇年度分の外注費は、請求金額に対して一四万一〇〇〇円少ない支払いがなされていたところ、被告人は、以前被告会社が大平組に大台ケ原・有馬ロイヤルカントリーの橋梁工事を外注した際、大平組に欠損を生じさせて迷惑をかけ、次の工事の機会にその補填を約していたので、昭和五〇年度において淀大橋の工事を外注した際、前記請求金額と支払金額との差額をも考慮し、大平静雄との間で、昭和五一年三月三一日現在の未払金を二〇六万円と取り決めたのであり、そして、右大台ケ原・有馬の工事により大平組に欠損が生じた際、被告人個人で大平静雄に五〇〇万円を貸していたので、同年四月以降、右未払金の支払分をその貸付金の返済に充当することにしていた、というのである。

関係証拠によると、工事未払金台帳の大平組に関する昭和五一年三月三一日の欄の貸方に、未成工事支出金・工事代として二〇六万円の記載があり、外注台帳にはこれに対応する記載はないことが認められる。そして、大平静雄の大蔵事務官に対する質問てん末書によれば、被告会社は淀大橋工事につき右外注費を計上しているが、大平組は被告会社から淀大橋の近くでガス管の布設工事を下請けしたことがあったが、遅くとも昭和五〇年一〇月には工事を終わっており、その未決済代金はなく、昭和五一年三月ころは鳥飼大橋及び三田の現場で松田組の下請けをしていたことが認められる。これらの事実によれば、右未成工事支出金は架空であることが明らかである。右未成工事支出金が大台ケ原・有馬ロイヤルカントリーの橋梁工事の清算金であるという所論に沿う被告人の供述の信用しがたいことは原判決の説示するとおりであり、他に右判断を左右するに足る証拠はない。所論は採用できない。

2  松本鋼機の昭和四九年度分一七五万円(原判示一の2)について

所論は、右一七五万円の計上について、原判決が、被告人の指示によりほ脱目的のもとに計上されたものと認めるのが相当であるが、仮に右計上が単純な事務の誤りによるものであったとしても法人税ほ脱の故意の成立には、申告所得を超えるなにがしかの所得が存することの概括的認識があれば足りると解され、被告人に右認識があったことは明らかであるとして、故意を認めているのに対し、右未成工事支出金一七五万円を計上した人物が法人税ほ脱の目的をもって故意にその処理をした事実は、公判立証によって明らかにされておらず、また刑罰の対象となる行為に原則的に故意を必要とし過失を罰するのは特定の場合に限られるのが刑法の大原則であり、法人税ほ脱犯の場合もその例に洩れず、法人税には過失によるほ脱を処罰する規定はなく、概括的犯意の理論により、事務を担当した他の者の行為が過失に基づく場合、若しくはそれが故意によることが明らかでない場合にまで会社代表者である被告人に刑事責任があるとするのは、拡大解釈であり、原判決には以上の点において事実の誤認ないし法令の解釈の誤りがある、というのであると解される。

関係証拠によると、工事未払金台帳には、松本鋼機に関する昭和五〇年三月三一日の欄の貸方に未成工事支出金・材料代として一七五万円を計上し、次期に全額繰り越していること、及び昭和四九年度において、被告会社が松本鋼機と取引をした事実はなく、右支出が架空であることは明らかである。しかして、かかる経理上の操作を誰がしたのかを確定する証拠はないけれども、関係証拠によれば、原判決が説示するとおり、その事業年度において全く取引のない下請先に対する未成工事支出金を外注台帳や請求書などの徴憑類に基づかないで、誤って計上するとは到底考えられず、右記帳は、少なくとも裏金作りを命じた被告人の一般的指示に従って、事務担当者が故意にこれをしたと推認するのが相当であり、この点に関する原判決の事実認定に誤りはない。また、右未成工事支出金の計上が単純な事務の誤りであるという仮定的事実を前提として判示している概括的故意についての原判決の説示も、被告人の指示に基づいて前記のような裏金作りのための法人税ほ脱が行われていた被告会社の経理の実態を前提する限り相当であって、原判決に法令解釈の誤りはない。所論は採用の限りではない。

3  エスケー工事株式会社(以下、「エスケー工事」という。)の昭和五〇年度分一〇〇万円、株式会社光映技術(以下、「光映技術」という。)の同年度分二五〇万円(原判示一の9)について

所論は、エスケー工事の一〇〇万円、光映技術の二五〇万円は、被告会社が君津市区画整理事業組合の整理事業に関連する工事を戸田建設株式会社(以下「戸田建設」という。)から受注できるよう光映技術に仲介を依頼した際に支払った報酬の前渡金であって、右工事の受注が実現しなかった場合でも右金員の返還を求め得るものではなく、被告会社は右受注の不成功が機縁となって、その後戸田建設を構成員とするジョイントベンチャーから、関西地区における別の工事を受注しているのであって、右合計三五〇万円は工事受注のための経費に当たる、というのである。

関係証拠によると、工事未払金台帳には、エスケー工事の昭和五〇年度分一〇〇万円について、昭和五一年三月三一日の欄の貸方に、未成工事支出金として、一〇〇万円の記載があり、光映技術の同年度分二五〇万円について、昭和五一年三月三一日の欄の貸方に、未成工事支出金として二五〇万円の記載があるが、外注台帳にはこれに対応する記載はないことが認められる。

また、関係証拠によれば、被告会社は、光映技術に対し戸田建設から所論指摘工事を受注できるよう斡旋を依頼し、その報酬として五〇〇万円を支払ったが、斡旋が成功しなかったため光映技術側に対しその返還を請求していたが、返還されないままになっていたこと、被告会社では右五〇〇万円の一部三五〇万円を右のとおり経理処理をしたことが認められ、光映技術の代表取締役である原審証人渡辺光もこれを被告会社に返還しなければならないものであると明確に述べており、そうだとすると、右五〇〇万円は、被告会社においてその返還を求めることのできる債権であると認めざるを得ない。従って、未成工事支出金として計上された右三五〇万円が架空であることは明白である。所論は採用できない。

二  機械の購入代金による架空原価(原判示二)について

論旨を要約すると、以下のとおりである。別紙目録記載の物件(以下、「本件機具」ともいう。)は、いわゆる堀進機構に付随する消耗の著しいもので、短期間に除却されるものであるから、当初から消耗品として処理したものである。このような処理は、土木業界において、多くの業者によって行われている。仮に、これを減価償却資産として処理したとしても、破損による廃棄の際、除却損を計上することになるので、本件機具を、消耗品として処理したことを否認して減価償却資産として修正するならば、これに伴ってこれらの物件のうち昭和五〇年三月末及び昭和五一年三月末に既に破損して存在しなくなった物件について除却損を計上しないで本件機具の使用によって得られた収益のみを取り上げ、本件機具の損耗を無視すれば所得計算における費用、収益対応の原則に反することになるところ、オーガーヘッドは昭和四九年一〇月二二日及び昭和五一年二月二八日各一個が補充されているので、各時点においてオーガーヘッドについて一個宛除却損が発生していることが明らかである。更に、仮に、本件機具が減価償却資産に該当するとしても、本件機具のうち、

<4>ヘッドツメ(住友電工製) 八個(四四万円)

<5>ハイテンションボルト 二〇本(三万円)

<6>スクリューパッキング 一〇枚(三〇〇〇円)

<7>ヘッド弁 七〇本(七〇〇〇円)

<8>ヘッドツメ 一四個(七万円)

は、いずれも耐用期間が極めて短く、かつ一個一〇万円以下のもので、法人税法施行令一三三条の少額減価償却資産に該当し、その取得価格を損金に算入することが法律上認められておるものであるから、被告会社が損金として処理したことに何ら不正はなく、この点について原判決の事実誤認は明らかである。

そこで、検討するに、

1 関係証拠によると、被告会社は、昭和四九年度分において、昭和四九年四月アースオーガーK八〇Hを三六五〇万円で、昭和五〇年二月アースオーガーD一二〇H一式を六〇〇〇万円で、昭和五〇年度分において、昭和五〇年九月アースオーガーSMD八〇Hを一二〇〇万円でそれぞれ購入したことが明らかである。

所論は右機械に装着される別紙目録記載の機具は消耗品であるというが、これら(ただし、次項2で消耗品と認めたものを除く。)は、右機械の部品であってそれぞれその機械本体と一体となっており、経理上もいずれもその機械本体と一体で処理するべきであると認められ、これらが減価償却資産のうちの工具に該当し消耗品に当たらないとした原判決の認定は相当である。

2 別紙目録記載一の<5>ないし<7>は、いずれもアースオーガーK八〇Hの部品であって、摩耗、破損等により消耗が激しいものであるところ、そのうち、本来機械本体と一体となるものは、当然、経理上もその機械と一括して処理されることとなり、その部分は消耗品に当たらないと解すべきである。しかし、補修用の予備として購入した部分については、消耗が激しいことに加えて、その金額も少額であり、その数量も特に多量でないという事情があれば、これらを消耗品と認めるべきである。このような見地から関係証拠を検討すると、同目録記載の一の<5>のうちの一五本、<6>のうちの五枚、<7>のうちの一本はいずれもアースオーガーK八〇Hと一体として減価償却資産となるものであり、その余、すなわち、一の<5>のうちの五本(七五〇〇円)、<6>のうちの五枚(一五〇〇円)、<7>のうちの一本(六九〇〇円)はいずれも消耗品と認めるべきである。この点について原判決には事実誤認があるといわなければならない。次に、同目録一の<4>及び<8>もまたある程度消耗が激しいことも認められるが、金額等に照らしてこれらを消耗品と認めるのは相当ではなく、その機械本体と一体として処理すべきである。

3 所論は、別紙目録<4><5><6><7><8>の各物件は法人税法施行令一三三条の「少額の減価償却資産の取得価格の損金算入」の規定に該当するというが、これらの物件(2項において消耗品と認定したものを除く。)は、右機械本体と一体として処理すべきものであるから、少額の減価償却資産には当たらず、法人税法施行令一三三条は適用の余地はない。また、所論はオーガーヘッドが昭和四九年一〇月二二日及び昭和五一年二月二八日に各一個補充されているので、各時点において一個ずつ除却損が発生している旨主張するが、それらを購入して補充したことは認められるけれども、所論主張の時点においてオーガーヘッドを各一個ずつ廃棄したことについてこれを認めるに足りる証拠はないので、所論は採用できない。

三  減価償却(原判示三)について

論旨は、昭和四九年度に六二三万四一五四円が、昭和五〇年度に七六〇万一〇一七円がそれぞれ減価償却費として損金算入されるべきである。すなわち、原判決が法人の簿外資産について減価償却が認められないとしたのは一応相当であるが、被告会社では、減価償却資産の償却費として損金計上しなかったもののこれを消耗品費として損金計上しているから、右消耗品を減価償却資産と認定する場合には、法人の減価償却を任意とする法理、費用収益対応の原則に照らしても、この場合、減価償却費を認めるべきである、というのである。

関係証拠によると、被告会社が、昭和五〇年二月に取得したアースオーガーD一二〇Hのうち工具計上した一〇〇〇万円を除くその余、及び昭和五〇年四月に取得したボクレンを簿外資産としたことは明らかであり、法人のこの簿外資産については減価償却費の損金算入が認められないことは当然である。所論は、消耗品等とした処理が否認され、減価償却資産として認定されたのであるから、減価償却費を認めるべきであるというが、減価償却はこれを必ずしなければならないものではなく、減価償却の手続きをとらなかった以上、たとえ減価償却資産として計上していなかったため、減価償却を行えなかったのであるとしても、減価償却費を認めることはできないというべきである。

四  交際接待費(原判示五)について

1  完成工事原価組み入れ主張分について

(一) 雑費組み入れ主張分(原判示五の1の(二))について

論旨は、

<3>昭和四九年一二月二六日 四五万円

<4>同 年同 月二八日 四〇万円

<5>昭和五〇年 三月二九日 三〇万円

<6>同 年 八月一三日一二五万円

<8>同 年一二月二二日二〇八万円

については、いずれも被告会社が日本鋼管工事又は吉村建設工業から下請けした工事の現場において、被告会社の現場監督の人手が足りなかったので、右各会社の従業員が度々その代行をし、被告会社は右の労務提供に対する報酬の意味で右のように現金を支払ったものである、もし右労務提供が行われなかったら被告会社としては下請契約に則り、別に現場監督を雇い入れて配置するか、受注量を減少して調節しなければならなかったものであり、被告会社では、右と別に、右従業員らに対して中元又は歳暮として相応の品物を送っているのであるから、右現金をたまたま八月、一二月に支払ったとしても(<3>は三月である。)、それらは中元又は歳暮に該当するものではない、また、それらを具体的計算によって算出した資料がなく、それらが一見高額のように思われるとしても、被告会社としては別に現場監督を雇い入れて夜間の勤務に配置するのに要する費用を考え、それよりも少額であることを念頭において支払っているのである、従って、これらは雑費に該当するものであるのに、原判決が交際接待費に該当するとしたのは事実誤認である、というのである。

関係証拠によれば、右<3><4><6><8>はいずれも日本鋼管工事の従業員に対してそれぞれ原判決摘示の各年月日に渡したものであって、具体的には、<3>は同社の石井に全額を、<4>は同社の長塚に三〇万円、同田中に一〇万円を、<6>は同社の神代に三〇万円、同長塚、松本に各二〇万円、同田中、青井、森本、木原、渡辺に各一〇万円、同山田に五万円を、<8>は同社の長塚、松本に各三〇万円、同木原、神代に各二〇万円、同田中・青井、山田・堀井に二人宛各二〇万円、同畑辺・武・稲田、同馬越・浦中・是岡、同森本・市坪・渡辺に三人宛各一五万円、同草柳に五万円、同松岡・岡田・田中、加藤・柳原ほか一名に三人宛各九万円をそれぞれ渡したことが認められるところ、これらの金銭の支払われた時期がいずれも八月と一二月であること、受領者がいずれも被告会社の重要な受注先である日本鋼管工事の従業員であること、支払った金額の根拠が明らかでないこと等に加え、これらがいずれも裏金から支払われているものであることに徴すると、これらの金額は被告人が取引先の関係者に対する贈答等のため支出したものであって、交際接待費に当たるとした原判決の認定は相当である。また<5>は、原判示年月日に吉村建設工業の桝本に対し謝礼として渡したものであるところ、原審証人桝本安蔵の供述によれば、被告会社のため現場監督の代行をしてやったのは本来の自己の勤務時間内のことで長時間のものではなく、右謝礼の額は吉村建設工業から貰う給料の一か月半に当たることが認められ、これについても、原判決が、被告会社に対するアルバイトの報酬としては極めて高額であると判断し交際接待費に当たるとした認定は相当である。その他右認定を左右するに足る証拠はない。所論は、到底採用できない。

(二) 会議費組み入れ主張分(原判示五の1の(三))について

論旨は、

<4>昭和四九年 八月 五日 五万一四四〇円

<5>同 年 同月 同日 二万一〇〇〇円

<6>同 年 同月一六日 二〇万一二五五円

<7>同 年一一月一三日 二万六五〇〇円

<8>同 年 同月 同日 一一万〇一一七円

<9>同 年一二月二六日 四万三〇〇〇円

<10>同 年 同月 同日 二万四一三五円

<11>昭和五〇年 二月 八日 六万三七〇〇円

<13>同 年 同月 同日 二万七四九〇円

<16>同 年 三月二二日 五万八二九五円

<17>同 年 同月 同日 一一万七四三八円

<18>同 年 四月 八日 七万八六〇〇円

<19>同 年 同月二六日 七万一六九二円

<20>同 年 同月二八日 二万一一七五円

<22>同 年 五月二三日 四万六一三〇円

<23>同 年 同月 同日 三万八二五〇円

<24>同 年 同月 同日 一九万四六〇〇円

<25>同 年 六月二六日 一万八三〇〇円

<26>同 年 七月 一日 六万二〇〇〇円

<27>同 年 同月 同日 二万二四〇〇円

<28>同 年 同月 同日 一四万八八四一円

<30>同 年 八月一三日 三万五二九〇円

<31>同 年 同月 同日 六万七二三九円

<34>同 年一〇月一五日 六万三三七六円

<35>同 年 同月二三日 二万九二八〇円

<37>同 年一一月一一日 七万二〇〇〇円

<38>同 年 同月 同日 二万六四三八円

<39>同 年一二月二二日 二三万三五〇〇円

<41>昭和五一年 一月二四日 一万六七〇〇円

<42>同 年 三月一六日 五万六一一〇円

これらの支払いは、いずれも業務に関する打ち合わせをした際の飲食に対するものであり、しかもその内容は、通常一般に会議の後の飲食として常識の程度を逸脱したものではないから、これを会議費と認定するのが相当であるのに、原判決がこれらについて、得意先の接待麻雀等の費用、飲食店への接待費用であるから、交際接待費に当たるとしたのは、事実誤認であるというのである。

関係証拠によれば、上記の支払いが、いずれもそれぞれ原判示の年月日に、原判示各金額(ただし、「寿し菊」については後記のとおり)のとおり行われていること、そのうち、<4><6><9><11><24><26><37><39>は旅館「藤川」に、<8><10><17><20><23><28><30><34><38><42>はいずれも飲食店「大まさ」に、<13><16><22><27><31>はいずれも飲食店「かねよ」に、<18>は「キャラバン」に、<19>は「たかせ川」(七二〇〇円)、「とり市」(一万一〇五五円)、「三嶋亭」(一万七六一七円)、「万福庵」(二万〇一六〇円)、「新阪急ホテル」(七一四〇円)「リヨン」(八五二〇円)に、<25>は寿司店「寿し菊」(ただし、「寿し菊」に支払われた金額は、原判示金額より二〇〇〇円少ないと認められる。)に、<35>は「ドル」(一万五二八〇円)、「いづう」(一万四〇〇〇円)に、<41>は「う一番遠州」にそれぞれ支払われ、<5>は「大江戸」におけるチップ(五〇〇〇円)と日本鋼管の切金ら及び大阪ガスの谷口のタクシー代(合計一万六〇〇〇円)の立て替え分を被告会社の雪竹進に支払ったものであること、<7>は日本鋼管工事の依笠外三名で飲食し、サウナに行った費用(合計二万〇五〇〇円)と、八月から一〇月までの電話代(六〇〇〇円)、合計二万六五〇〇円の立て替え分を被告会社の高木恒定に支払ったものであること、以上のうち、<5>(全部)、<7>(飲食代八五〇〇円を除く一万八五〇〇円)を除くその余は総て飲食代金(税金及びサービス料を含む。)又は土産物代であることが認められる。これらのうち、まず<4><6><9><11><24><26><37><39>(以上「藤川」)、<8><10><17><20><23><28><30><34><38><42>(以上「大まさ」)はいずれも金銭出納帳(符号2)に、<5>(「大江戸」)、<7>(高木立替分)、<18>(「キャラバン」)、<19>(「たかせ川」等)、<25>(「寿し菊」)、<35>(「ドル」「いづう」)、<41>(「う一番遠州」)、<13><16><22><27><31>(以上、「かねよ」)はいずれも金銭出納帳(符号1)に記載があるので、これらが、裏金から支払われたことは明らかである。次いで、それらの使途を考察すると、それぞれの支払証明書、請求書、領収書等により、(1)、「藤川」分の<24><37><39>は麻雀等をした際の費用であること、(2)、<5>は「大江戸」で日本鋼管工事の切金ほか、大阪ガスの谷口、杉本を接待した際のチップ、車代であること、(3)、<7>は前示のとおり、高木が日本鋼管工事の依笠ら四人と飲食し、サウナに入った際の費用であること、(4)、<8><10><17><20><23><28><30><34><38><42>の「大まさ」における飲食はすべてビール、酒等を伴っていること、(5)、<18>は「キャラバン」において仁木工務店の従業員を接待飲食した費用であること、(6)、<19>のうち「たかせ川」「とり市」、「三嶋亭」、「リヨン」での費用にはいずれもビール、酒等を伴っていること、(7)、<31>の「かねよ」分は、同店における三回の酒類を伴う飲食代金分をまとめたものであるが、そのうちの昭和五〇年六月四日の分は四名で飲食したもので、かば焼き四人分が土産となっているものであること、(8)、<25>の「寿し菊」の分は被告会社の柴田がケミカル山本関係者と飲食した際の費用であること、(9)、<35>の「ドル」はスナックであり、また、「いづう」の分は、二名で飲食して、土産にしたと思われる折り五個分の費用が含れていること、(10)、<41>は、鰻屋「う一番遠州」における三回の飲食代金で、うち二回は各二名での飲食代で、そのうち一回はかば焼き等を土産にしており、他の一回は五名での飲食であること等の事実が明らかである。

そこで検討するに、交際費とは、得意先、仕入先その他事業に関係のある社外の者に対する接待、きょう応、慰安、贈答等に要する費用をいうものであり、他方、所論のいう会議費に該当する費用とは、会議に際し社内又は通常会議を行う場所において供与される茶菓弁当その他これらに類する飲食物に通常要した費用をいうものであるところ、前示各支出についてそれぞれその使途内容に照らすと、(ア)酒類を伴った飲食の費用であることが明らかな、<8><10><17><20><23><28><30><34><38><42>(以上「大まさ」)、<19>のうち「たかせ川」「とり市」「三嶋亭」「リヨン」の分、<31>(「かねよ」の分)、(イ)麻雀をした際の費用であることが明らかな<24><37><39>(以上「藤川」の分)、(ウ)土産物の費用も含まれている<35>(ただし「いづう」)、<41>(「う一番遠州」)、(エ)「大江戸」で日本鋼管関係者を接待した際の前示チップ、タクシー代である<5>、(オ)日本鋼管工事関係者と飲食しサウナに行った際の費用である<7>、(カ)八名で普茶料理を食べた費用である<19>の「万福庵」、ダイニングアズールで飲食した<19>の「新阪急ホテル」の分は、いずれも裏金から支出されていることに加えてその使途自体によって、当然接待費に入れるべきである。更に、<35>は、「ドル」がスナックであることに加えて、その額をも参酌すると、酒類が中心であったと認められ、そうすると、これも接待費とみるべきである。また「藤川」及び「かねよ」の分はすべて裏金から支出されていることに併せ、それらの支払金額等を考慮すれば、「藤川」の分のうち麻雀をしたことの明白ではない<4><6><9><11><26>及び「かねよ」の分のうち<13><16><27>も他のこれらの店の場合と同様、麻雀の際の費用或は酒類を伴った飲食の費用であると推認できる。また、<18>は、領収書の適用欄によって「仁木工務店」関係者を接待したことが明らかであって、これも接待費とみるべきである。

しかし、<7>のうち六〇〇〇円は被告会社の高木が立て替え支払ったと認められる八月から一〇月までの三か月分の電話代であって、これが被告会社のための電話であったものと推認すると、これを接待費とするの根拠はなく、営業経費とするのが相当である。そして、<25>の「寿し菊」の分は、前記に使途に徴して接待費であると認められるが、その金額は一万六三〇〇円であって、原判決がこれを一万八三〇〇円としているのは事実認定を誤ったものである。

2  一般管理費組み入れ主張分について

(一) 福利厚生費組み入れ主張分(原判示五の2の(一))について

論旨は、

<2>昭和五〇年 六月一一日 四万四六九〇円

<3>同 年 同月二〇日 一万円

<4>同 年 同月二二日 七五万円

<5>同 年 同月 同日 二万二〇〇〇円

<6>同 年 同月 同日 一万八七四〇円

<7>同 年 同月 同日 一一万四七三〇円

<8>同 年 同月二四日 二万四〇〇〇円

<9>同 年 同月二〇日 二六万円

同 年 同月二七日

<10>同 年 同月三〇日 八二六〇円

<11>同 年 七月 三日 一四万九八四〇円

<12>同 年 同月 九日 五万一〇〇〇円

これらについては、いずれも従業員の人間関係を良くし、士気を高め、もって従業員の効率的な働きによって会社業務の円滑な進行を目的として支出されたものであるから、福利厚生費に当たるものであるにもかかわらず、原判決がこれらを交際接待費であると認定しているのは事実誤認である、というのである。

関係証拠によれば、<2>ないし<8><10>ないし<12>は、いずれも、それぞれ裏金から支払われたものであり、その内容をみると、<2>は三崎清ゝ館にリボン代として、<3>は受付手伝いの祝儀として、<4>はプランニング・オフィス・メイクに一〇周年祝賀会アトラクションの費用として、<5><8>は貸衣装店ワタベに、<5>では三浦の貸衣装、白足袋代として、<8>は北山、森下の貸衣装代として、<6>は祝賀会タクシー代として、<9>は被告会社社員に対する記念品代として(社員五二名に一人一個五〇〇〇円)、<10>はロイヤルホテルに祝賀会室料、日本鋼管工事に対する電報代として、<11>は「くらびら」「都観光」「キャラバン」「平八」にいずれも被告会社の特定幹部歓送迎会の費用として、<12>は「井筒」「キャラバン」「ゴーストップ」にそれぞれボーリング大会の際の費用としてそれぞれ支払われていることが明らかである。これらのうち<11><12>を除くものは、いずれも被告会社創立一〇周年記念祝賀の費用であり、<12>も右祝賀会についての慰労のためのものであるから、これも右祝賀会に伴う費用というべきである。そこで、右祝賀会についてみるに、関係証拠によると、招待した客は、日本鋼管工事等被告会社の取引先、取引銀行等金融機関、建設業協会、会計事務所、法律事務所各関係者、県議会議員ら一九〇名で、うち一〇六名が出席し、また、被告会社関係では、正社員五二名の外アルバイト若干名が出席しており、出席者のおおよそ三分の二は招待客であることが認められる。従ってその行事全体が被告会社の顧客等を招待してこれを接待する趣旨のものであったとみるのが相当であり、いずれも裏金から支出していることをも併せ考えると、原判決がこれら(<11>を除く。)の支出をもって福利厚生費とみることができず、交際接待費であると認定したのは是認できるといわなければならない。また、<11>についてはその使途の内容に照らして、福利厚生の目的による会合の費用とみることはできない。

(二) 旅費交通費組み入れ主張分(原判示五の2の(二))について

論旨は、昭和五〇年九月三〇日の田中タクシー代金一万六〇〇〇円は、被告会社の滋賀出張所が使用したタクシーの代金を同所長の妻の経営する飲食店「光代」のチケットを借用して支払っていたものについての月末清算分であって、同所の交通費であるのに、原判決がこれを交際接待費と認定したのは事実誤認である、というのである。

関係証拠によると、被告会社は、「光代」に昭和五〇年九月三〇日タクシー代一万六〇〇〇円を支出していること、同日「光代」に七万円を支払っていること、「光代」は京都祇園のクラブであることが明らかである。所論のいうように被告会社滋賀出張所で使用したタクシー代を京都のクラブのチケットで払うのも不自然である上、同出張所が「光代」のチケットを使用していたとするならば、帳簿上他に同様の記載があってしかるべきであるのに、そのような記載は見当たらず、この日又は月だけチケットを借りたというのも真実味に欠けており、同日七万円を「光代」に支払っているのは、同店で取引先を接待した費用の支払いであり、右一万六〇〇〇円は、その際客をタクシーで送った費用で接待費に含まれると認められる。

(三) 諸会費組み入れ主張分(原判示五の2の(三))について、

論旨は、

<2>昭和四九年一〇月二五日 二〇万円

<6>昭和五〇年 二月二六日 二〇万円

<8>同 年 四月 五日 一六万九〇〇〇円

<9>同 年 七月一八日 一〇万円

これらはいずれも被告会社の業務に直接関係のある竹公会、建設業協会、水公会、十日会の会合等の会費、参加費用等であるのに、原判決がこれを交際接待費に当たると認定したのは事実誤認である、というのである。

関係証拠によると、被告会社は、いずれも建設業協会に、昭和四九年一〇月二五日<2>の二〇万円を、昭和五〇年二月二六日<6>の二〇万円を、同年七月一八日<9>の一〇万円を、十日会に同年四月五日<8>の一六万九〇〇〇円をそれぞれ支払っていること、その使途につき、<2>は「社長伊豆行き経費」として、<6>は「社長城崎行き費用」として、<8>は「スーパーソニックツーリスト・マニラ香港旅費暁建設分(割り引き分)」として、<9>は「沖縄海洋博参加費」として(ただし、領収書の宛名は暁建設株式会社となっているが、他と同様、被告会社の支出負担したものとみるべきである。)支出がなされていることが認められる。してみると、これらはいずれも建設業協会等の行う旅行に参加する費用で、不定期の支出であり、金額も不定で、旅行先も温泉地、博覧会の開催地等の観光地あるいは海外であって、これらの費用が建設業協会等の会費であるとみることはできず、建設業協会等の会員相互の親睦を図った遊興観光目的の旅行の費用として交際接待費に当たるものとみるべきである。

五  貸付金(原判示六)について

1  野口佐治兵衛に対する貸付金分について

論旨は、

<1>昭和四九年一二月二三日 五万円

<3>昭和五〇年 八月一三日 五万円

<4>同 年一二月二二日 一〇万円

これら三回の被告会社からの野口に対する支払いは、被告会社が橋梁工事に優れた技術を有していた暁建設株式会社を買収した後、被告会社において施工した橋梁工事等(例えば大台ケ原)について、長年にわたる優れた知識と経験を有している野口から技術・工事施工について相談に乗ってもらったり、現地へ来てもらって直接指導を受けたりしたので、そのことに対する報酬として裏金の中から支払ったものであり、相談料、指導料(実質はあくまで報酬である。)として常識として適当として思われる額を支払ったものであって、被告会社は当時野口に対して盆暮れにはこれら現金とは別に相応の品物を贈っており、原判決が右相談料・指導料を交際接待費であると認定したのは事実誤認である、というのである。

関係証拠によると、被告会社がいずれも裏金から野口佐治兵衛に昭和四九年一二月二三日<1>の五万円を、昭和五〇年八月一三日<3>の五万円を、同年一二月二二日<4>の一〇万円をそれぞれ支払っていることが明らかである。これらは、いずれも支出の時期が盆暮れであり、<3><4>はいずれも日本鋼管工事関係者らに対して金一封を送るのと一緒に処理されており、野口に対する支出も日本鋼管工事関係者に対するものとその性質を同じくするとみられるのであって、すべていわゆる盆暮れの贈答とみるのが相当であり、交際接待費とみるべきである。原審証人野口佐治兵衛は原審公判廷で、相談料として受け取った旨述べ、原審及び当審における被告人質問の結果も同旨であるが、野口と被告会社との間には報酬契約があったのでもなく、野口が大台ケ原に行ったのが暁建設の社長を退き会長となった昭和四六年ごろの二、三年後だというのであって、いつであるのかすら明確ではなく、<1><3><4>との因果関係も不明確であって、これらを労務提供に対する報酬だとは到底認められない。

2  光映技術(代表取締役渡辺光)に対する貸付金分について

論旨は、

<2>昭和五〇年 三月二二日 一〇〇万円

<5>昭和五一年 二月二八日 一五〇万円

これらは、戸田建設発注の君津市区画整理事業工事を請け負うことについて仲介をした光映技術に対して斡旋料として支払ったものである、光映技術は右区画整理事業の設計監理を行っていた地位を利用して、副業的に戸田建設の下請けを斡旋してその報酬を稼いだものであって、これらは光映技術にとっては収入(益金)となるが、被告会社では営業経費(損金)となるものであり、原判決がこれらを貸付金と認定したのは事実誤認である、なお、被告会社は結果的には右工事を受注することはできなかったが、その後、これを機縁として戸田建設等を構成員とするジョイントベンチャーによる神戸市ポートアイランドの工事を受注しておる、というのである。

関係証拠によると、被告会社は、昭和五〇年三月二二日<2>のエスケー工事分一〇〇万円を、昭和五一年二月二八日<5>の光映技術分一五〇万円を各支出していることが明らかであり、これらは、架空外注加工費についての判断として前に説示したとおり、その返還を求めることができるものであるから、いずれも貸付金とするのが相当である。

六  完成工事高(原判示七)について

論旨は、被告会社が株式会社日本基礎(以下、「日本基礎」という。)から受注した工事は、掘削した地下部分に破壊防止のためパイル埋め及び土留めをする工事であるから、これらの工事をすべて完成させて相手方に引き渡した日をもって、その収益帰属の時期となすのが当然であるところ、本件においては、受注先である日本基礎が倒産し、右工事が中断されたまま続行されなかったのであるから、その収益計上の時期は被告会社が工事現場から機械、人員を総て引き上げた昭和五一年五月ごろとすべきであるのに、原判決が、右工事は全体として未完成ではあるが、完成された部分については出来高払いを受けて代金が債権として確定しているとし、その確定した代金部分は、当該事業年度の益金に帰属するとしたのは事実誤認である、というのである。

関係証拠によると、被告会社は、昭和五〇年八月二五日日本基礎から、藤沢駅前都市開発事業のうち、建物を建築するため掘削した地下の土留め、パイル埋め工事を契約代金三三五〇万円で下請けしたこと、立退問題のこじれ等の事情により受注した工事の着工が遅れたところ、翌五一年三月日本基礎が倒産したため、被告会社は受注工事を中断し、同年五月には最終的に受注工事から手を引いたこと、被告会社は日本基礎から工事代金として、昭和五〇年一二月額面一三〇万円、同五〇〇万円、翌五一年一月額面六六〇万円、更に、日本基礎が手形不渡を出し倒産した後の同年三月二三日額面一一三〇万円のいずれも日本基礎振出の約束手形四通額面合計二四二〇万円を受領したこと、被告会社は、立替金との相殺金額二二〇万円をこれに合わせた二六四〇万円を完成工事高として収入に計上していたのに、これを除外し、その完成工事原価二五四五万四三一一円を他の工事(三重県企業庁から受注した分)の原価として付替計上したことが明らかである。右事実に照らすと、被告会社は、右受注工事を完成させておらず、その引き渡しも未了であることは、所論のいうとおりである。しかしながら、本件のごとく、昭和五一年三月末現在において工事が中断され、再開の目ども立っていない状況にある一方、前示のとおり日本基礎から手形四通を工事代金として受領しており、従って、日本基礎に対する債権は確定していて、被告会社も、昭和五〇年度につき、右のとおり右受注工事原価を他の工事に付け替えして経理上自らピリオドを打っているのであるから、その時点において、これを完成工事とみるべきであり、従って、右二六四〇万円を完成工事高として計上すべきである。この点につき、原判決の認定判断は相当である。論旨は理由がない。

七  完成工事原価(原判示八)について

論旨は、暁建設の決算期である昭和五〇年七月三一日及び被告会社の決算期である昭和五一年三月三一日の二回にわたり、城陽幹線今池等合計一五件の工事につき、実際は被告会社がその下請業者を使って施工したにもかかわらず、被告会社が暁建設に発注し、暁建設が施工したように操作したことは、被告会社のみではなく、他社においても広く一般に何ら疑問なく行われているものであり、被告会社の所得のみに目を向けるとその所得を子会社に振り替えたことになり、被告会社の法人税を軽減することになるが、他方において子会社の利益が増加するので、仮に子会社が欠損状況にあったとしても、青色申告にかかる繰越欠損金額が減少することになるから、全体からみれば法人税のほ脱犯となるものではなく、また、被告会社及び暁建設の代表者を兼ねる被告人が、被告会社より暁建設に支払うべき建設機械等の賃借料の意味も含めて利益操作を行ったのは、一般に行われている例に従ったものであり、法人税のほ脱犯を構成するものではなく、かかる行為に対して概括的故意の理論を適用する余地はなく、原判決が被告人にほ脱の故意を認めたのは、事実を誤認しないしは法令の解釈適用を誤っている、というのである。

関係証拠によると、被告会社では暁建設の決算期である昭和五〇年七月三一日及び被告会社の決算期である昭和五一年三月三一日に受注先日本鋼管工事、工事名城陽幹線今池、工事番号四九〇〇〇外一二件(四九六〇六、四九六一八、四九〇六五、四九六〇七、四九六一二、五〇八二七、四九〇一七、四九〇二七、五〇三〇一、五〇一〇四、五〇八三三、五〇八二六)について、被告会社が受注して下請業者を使って施工していたのに、被告会社が暁建設に発注し暁建設が下請業者を使って施工したように操作して、完成工事原価二二六八万三三〇二円を水増し計上したこと、また暁建設は、昭和四六年ごろに被告人が代表取締役となった後、急激に社員が退社し、昭和五〇年当時には、実質的には工事の施工能力に全く欠ける状態で(昭和五一年五月ころにおける暁建設の社員は業務担当の小林と経理担当の高田の二人だけで、二人とも被告会社の従業員であった。)暁建設の名目で工事をすることがあっても事実上は被告会社においてすべて行っていたこと、被告人は暁建設の経理内容を良くみせるために、被告会社の利益を暁建設に付け替えるよう、高田利一に指示し、同人は反対したが、結局これを行ったものであることが明らかである。右事実によれば、被告会社は昭和五〇年度分において右水増し計上した分だけ所得を減少させ、法人税を免れたことは明白である。被告会社と暁建設とが所論のいうような関係にあるとしても、施工能力に欠ける暁建設に名目だけ下請けさせて架空の外注費を完成工事原価に計上したことは、たとえ、他の目的による場合であっても、法人税のほ脱罪を構成することになんら疑いが無く、被告人の犯意に欠けるところもない。原判決には、所論のいう事実誤認も法令解釈適用の誤りもない。論旨は理由がない。

八  昭和五〇年度分未成工事支出金からの振替計上(原判示九)について

論旨は、工事番号五〇八三三の工事につき一〇〇万円、同五〇一〇四の工事につき二五〇万円各完成工事原価が過大に計上されているのは、経理担当者の過誤によるもので、法人税ほ脱の故意がなかったのに、原判決が、経理担当者の過失行為に概括的犯意論により被告人に故意を認め、刑事責任を問うのは、事実を誤認し、ないしは法令の解釈適用を誤っている、というのである。

関係証拠によれば、工事番号五〇八三三防衛医大第二期配管工事について、一〇〇万円を工事番号五〇八五四君津市周南地区簡易水道工事の未成工事原価から、工事番号五〇一〇四東部幹線工事について、二五〇万円を工事番号五〇二六八日本鋼管工事大久保、工事番号五〇二七三日本鋼管工事堀川高辻BV切込及び工事番号五〇一三八日本鋼管丸太町(川端一就)の未成工事原価からそれぞれ振替計上していることは明らかである。そうすると、昭和五〇年度分については右三五〇万円は完成工事原価の過大計上となる。これが被告会社の経理担当者の過誤によるものであることは所論指摘のとおりであるが、前示松本鋼機に対する未成工事支出金に関する判断中において説示したとおり、原判決が概括的故意を認定したのは相当であり、原判決には、所論のいう事実誤認も法令解釈適用の誤りもない。

九  結局、原判決の事実認定は、前示二「機械の購入代金による架空原価(原判示二)について」の2で説示したとおり、昭和四九年度に関し、目録記載一の<5>ないし<7>の一部について事実誤認があり、また、前示四の1の(二)「会議費組み入れ主張分(原判示五の1の(三))について」で説示したとおり、昭和四九年度に関し、同主張分<7>の一部について、昭和五〇年度に関し、同主張分<25>の一部について、それぞれ事実誤認があるほか、すべて正当であると認められる。右各事実誤認の結果、昭和四九年度において、二万一九〇〇円、昭和五〇年度において二〇〇〇円それぞれ所得額が多く、ほ脱額も昭和四九年度において六一三二円、昭和五〇年度において五六〇円多く認定されていることになるけれども、これを本件各事業年度における所得及びほ脱の額と対比すると、右事実誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。そうすると、原判決の事実認定には、原判示第一及び第二の各事実に関し、各所得額、ほ脱額につき判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認があるとはいえず、また、前示のとおり、所論主張のような法令の解釈適用の誤りもない。論旨はすべて理由がない。

第二控訴趣意第二点 量刑不当の主張について

所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果も併せ検討すると、本件は、被告人が代表取締役をしている被告会社が昭和四九年度分、昭和五〇年度分の二事業年度にわたり、合わせておよそ七三〇〇万円の法人税をほ脱したという事案であり、ほ脱額は甚だ高額であり、そのほ脱率も四〇パーセントを超えており、特に昭和四九年度分のそれは九〇パーセントという高率であって、犯情は軽視できない。被告人は、被告会社の代表取締役として、経理担当の取締役高田利一らに指示して本件犯行に及んだもので、その責任は重いというべきである。

してみると、所論が指摘する、被告会社が本件マスコミによって報道されるなどにより社会的信用を失い、受注が激減し、事業を大幅に縮小せざるを得ず、十分に社会的制裁を受けたこと、被告人は、被告会社を創立して一〇年、営々として、これを中堅の建設会社に成長させたもので、前科は、およそ三〇年前の罰金刑前科が業務上過失傷害罪によるものが一件、道路交通法関係のものが二件あるだけであって、本件に至るまでは、善良な市民であったこと、本件後、被告会社は、本件に対する更正決定については全額納付したこと、被告人が懲役一年に処せられた場合には建設業法二九条二号、同法八条七号、同条五号により被告会社の建設業法による営業許可が取り消されるのを免れがたいこと、その他被告人のために酌むべき情状を含めて、諸般の事情を参酌しても、被告会社を罰金一三〇〇万円に、被告人を懲役一年・二年間執行猶予に処した原判決の各量刑はいずれも不当に重いとは認められない。論旨はいずれも理由がない。

よって、それぞれ刑事訴訟法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石松竹雄 裁判官 高橋通延 裁判官 萩原昌三郎)

別紙

機具目録

一 昭和四九年四月購入のアースオーガーK80H関係

<1> オーガースクリューSHF500φ×5メートル 三本 一八六万円

<2> オーガースクリューSHF500φ×3メートル 一本 五六万円

<3> オーガーヘッドHHF500φB 二個 一一二万円

<4> ヘッドツメ(住友電工製) 八個 四四万円

<5> ハイテンションボルト一荷四分の1×170 二〇本 三万円

<6> スクリューパッキング 一〇枚 三〇〇〇円

<7> ヘッド弁 七〇本 七〇〇〇円

<8> ヘッドツメSCM-3 一四個 七万円

<9> オーガースクリューSP6-40 1000φ×24メートル 八本 }七五万円

<10> オーガーヘッドHP6-40 100φ 一個

<11> 継手ピンSH6-40 二〇本

<12> オーガースクリュー800φ×2.5メートル 五本 七五万円

<13> オーガースクリューSF600φ×157 一三本 一五六万円

二 昭和五〇年二月購入のアースオーガーD120H関係

<1> オーガースクリューSHF450φ×5メートル 五本 三〇〇万円

<2> オーガーヘッドHHF450φ-B 二個 一〇〇万円

三 昭和五〇年九月三〇日購入のアースオーガー8MD-80H関係

<1> オーガースクリューSHF600φ×5メートル 二本 一四四万円

<2> オーガーヘッドSHF600φB 一個 五三万円

<3> オーガーヘッドHHF650φB 一個 六二万円

<4> オーガーヘッドHP6-60 600φB 一個 四二万円

昭和六一年(う)第五九七号

控訴趣意書

法人税法違反 被告人 京阪工事株式会社

同 佐藤好夫

右被告事件につき、昭和六一年二月二七日、京都地方裁判所が言い渡した判決に対し、控訴を申し立てた理由は左記のとおりである。

昭和六一年八月一二日

弁護人 大槻龍馬

大阪高等裁判所第五刑事部 御中

第一点 原判決は、判決に影響を及ぼすべき法令の違反ないし事実の誤認がある。

一、法令違反ないし事実誤認の根源

原判決は、土木工事の特異性に基く契約締結の形態・請負代金の支払・機械器具の使用の実態・工事現場における慣習・従業員独特の気風・経理処理の方法に関する理解を欠き、かつ、法令の解釈を誤ったため、多くの事実について誤認に陥ったものである。

以下原判決の判示の順に従って右の点について述べる。

二、外注費(原判示一)について

1.外注費に関する原判決と控訴主張額及び控訴主張の理由を対比すると次の表のとおりである。

<省略>

<省略>

2.原判決は右認定にあたり冒頭において次のとおり判示している。

弁護人は、以下の外注加工費については実額であるか、あるいはほ脱の故意がない旨主張するところ、高田利一(二通、検第一五号及び第一六号)、望月弘(検第二七号)及び被告人(検第一二七号)の検察官に対する各供述調書、第一六回公判調書中の証人柴田宏の供述部分、証人高田利一に対する当裁判所の尋問調書(昭和五五年九月三日、同年一〇月三日各施行分)によれば、被告人京阪工事株式会社(以下被告会社という)の下請に対する支払は、毎月二〇日締切りで、出来高に応じて下請先から下請代金を請求させ、これをその現場の責任者において査定したのち、業務課において前渡金等を差引いてその支払額を決定し、翌月一〇日経理課においてその代金を支払う方式を採用していたこと、業務課においては、毎月各下請先ごとにその請求額と支払の状況等を明らかにするための外注台帳(下請支払明細表、以下外注台帳という)を作成しており、従って、下請代金との支払に関する事柄については、原則として右外注台帳に記帳されるシステムになっていたこと、被告会社の下請業者は零細なものが多く、被告会社から支払を受ける代金によってその経営がなりたっている実情にあり、請求した下請代金は翌月一〇日にその支払を受けるのがほとんどで、二か月以上も支払を受けずに放置しておくことはほとんどなかったこと、架空外注加工費の計上は、昭和四九年三月期の決算に際して、被告人佐藤好夫(以下被告人という)が未払架空外注加工費を計上して利益を少なくし、交際接待費などに使用する裏金を作るように指示したことから始まり、昭和五〇年及び五一年の各三月末決算では被告会社の利益もかなり上がったことや、会社規模を大きくするのに多額の交際接待費等が必要であったため、期末のみならず期中においても架空外注費を計上するに至ったこと、右架空外注費を計上する下請先は、実在するものと実在しないものがあったこと、右裏金は簿外金銭出納帳によって管理されていたことが認められ、工事未払金台帳に下請先に対する未成工事支出金として計上されているものが架空のものであるか否かを判断するに際しては、それが外注台帳に記帳されているか、特段の事情がないのに右計上後その支払がおくれていないかなどの点が重要な判断基準になるものと言うことができる。

右によれば原判決は、次の二点について原則論を打ち樹てている。

(一) 下請代金の支払に関する事項については、原則として右外注台帳に記載されるシステムになっていた。

(二) 工事未払金台帳に下請先に対する未成工事支出金として計上されているものが架空のものであるか否かの判断に際しては、それが外注台帳に記載されているか、特段の事情がないのに右計上後その支払が遅れていないかなどの点が重要な判断基準になる。

右のことは、換言すればその例外の場合や特段の事情のある場合の存在を容認しているものと解されるが、原判決は下請代金が架空なりや否やの判断を専ら右原則論によって貫き、「例外の場合」や「特段の事情のある場合」を排除する一つの方法として算出金額の算定根拠が明らかでないことだけを取り上げている。

3.しかしながら土木工事は建築工事と比較すると、同じ請負契約でありながら、土質の相異・天候による影響・土木従業員独特の気風・土木業界における永年の慣習等の点において著しく異なるところがある。

建築工事においては、建築資材・労務費などの綿密な積算により建築代金を算出しこれに利潤を加えて契約代金が定められるが、この見積が工事終了までの間に狂いを生じることは殆どないわけである。

ところが土木工事においては、建築工事と同様一応綿密な積算を行ない契約代金が定められるものの、地下に全く予期しなかった岩盤が発見されたり、伏流水が噴出したり、或いは長期間に亘る降雨による河川の増水、折角飯場を設けて待機させた土工に遊休などの事態が生じ工期・機械の損耗料・人件費等に関する当初の計画がすべて狂ってしまうようなことはあり勝ちである。

このような場合でも被告会社と外注先との請負代金の決済は当初の契約の基準に則って出来高払いが行われるだけで外注先からは、工事中より度々単価の改訂増額の要求がなされるまま工事完了となり、被告会社は決算期を迎え完成工事原価を確定しなければならないことになるのである。

勿論被告会社としては、外注先の増額要求に応ずべく逆に発注先に対して増額要求をなし、発注先からの増額通知を受けた際、その増額割合を参考として外注先への増額を具体的に決定するので、その時期は毎年一一月頃以降となり、到底決算時に間に合わないので、決算時には一応目途となる金額を工事未払金として完成工事原価の中に組入れたり、或いは他の工事代金に組入れておき、翌期に具体的金額が確定した段階で、もし過剰計上分が出たときはこれを雑収入として戻し入れる方法を採用していた。

例えば被告会社の瓦斯工事部門では、大阪ガス→日本鋼管→日本鋼管工事→被告会社→外注先の順で発受注が行われ、施主の大阪ガスの増額決定により右ルールの順に従って各社がそれぞれ増額の処理を済ませ、被告会社にその通知が到達する時期は前記のように毎年一一月頃以降となるわけである。

そしてその後増額金が被告会社に到達し、被告会社は外注先に配分する手順となる。

このような処理は発注者と受注者との間の全くの信頼のみによって行われているのが土建業界の慣例である。

以上のような事情については、調査・捜査及び原審の段階でも明らかにされていないし、この事情に精通している被告会社の工事部長石井靖士の取調は行われていない。又翌期増額受入れの経理処理を明らかにしている総勘定元帳は押収されたまま法定に顕出されていない。

(控訴審で取調を求める予定)

4.次に土木工事の特徴として挙げられることは、その大半が公共工事であるということである。

換言すると土木工事は、建築工事に比べて民間工事の割合は極めて低いのである。

公共工事の契約は、会計法・地方自治法等の規定によってその大半は指名競争入札が行われるので、まずその指名に加わらないかぎり契約に加わることは不可能である。

而して右の指名を受けることが容易でないことは、公共工事の入札における指名権に関する涜職事件が、日常新聞に報道されていることによっても推認できるところであり、これに関連して政治家に対する政治献金や、この間に暗躍する建設ブローカーに対する報酬などが必要であることはいうまでもない。

5.ところが、以上述べたように資金については、その支払先から正規の領収証を徴することができない場合が多く、そのような支出についてはその実態は明らかに経費に該当するものであっても公表経理に経費として計上することはできない。

そうすると公表経理の上では、当然損金になるべき筈のものが減少し過剰の所得を計上する結果になること(粉飾決算)からこれを調整する必要が生ずる。

本件における架空外注費の計上は主としてその調整のためである。

原判示の「交際接待費などに使用する裏金を作る」というのも架空外注費計上の動機の一つであはあったがその金額は僅かである。

なお架空外注費の中には現実に外注工事が存在しないものを存在したものとなすものと、現実に外注工事は存在するが外注先の都合で他の外注先名を使用して処理したもの(例えば衣笠忠行に外注した工事を同人の都合により安田組に外注したものとして処理したもの・・・・被告人の昭和五二年二月四日付質問てん末書第三問答ないし第七問答参照)

而して後者の場合は、記帳上いわゆる架空とはいえても、税法上は何ら逋脱の結果を招くものではない。

6.本件における被告人の次のような供述によっても架空外注の記帳が名実ともに架空にあたるのか、名義上のみ架空なのかの区別をつけることは関係証拠を子細に検討しないかぎり不可能であることがわかる。

(一) 自分の記憶する不正外注費計上の具体的外注先として池田組・安田組・堤組・松田組を挙げているが、そのうち安田組・松田組は訴追の対象となっていない。(昭和五一年一〇月六日付質問てん末書第八問答)

(二) 安田組の架空分三件について請求書に基づいて詳細な供述をなし、安田組との昭和四九年中の実取引は僅かであって、記帳にあるのはすべて架空であると述べているが、いずれも訴追の対象となっていない。(昭和五一年一〇月七日付質問てん末書第二ないし第五問答、同年一〇月一四日付質問てん末書第一問答)吉田組の架空外注費一五〇、〇〇〇円について供述しているが、この分も訴追の対象になっていない。(昭和五一年一〇月二二日付質問てん末書第二問答)

7.被告会社では、外注工事が完了したものの単価改訂による調整考慮し相手方に対する未払金を計上する必要のあること及びこのような場合、慣習によって概数を算出してこれを完成工事原価の中に計上するか若しくは他の未成工事につけ替えるような操作をしなければならないことについてはさきに述べたが、相手方はその支払の期待を有するだけで具体的な金額について認識を欠き、或いは工事完了後の受け入れ金であるため公表計上していないため、第三者特に収税官吏から尋ねられた場合、そのような債権を有していたこと及び金員受領の事実をも否定するようなことはあり勝ちである。

税法違反事件では一つの取引が相手方の売上除外なのか、被告会社の架空仕入れなのか区別の困難な場合があり、相手方の売上除外であれば相手方の不正となり、被告会社の架空仕入れであれば被告会社の不正となって両者の利益は対立するわけであるが、両者が互いに譲らない場合、結局告発された被告会社の方に不利益が皺寄せられる結果となる事例がかなり多い。

原判決は、以上述べた土木工事における特異性・税法違反における利害対立者の供述の特徴などの理解を欠いた証拠の価値判断をなし、もって事実を誤認したものである。(第一審で被告会社の架空仕入れであると認定された取引が、控訴審で相手方の売上除外であると認定された例――昭42・2・18、大阪高等裁判所判決・宮下鋼線株式会社に対する法人税法違反被告事件)

8.原判決は、判示一の2の事実について、昭和五〇年三月三一日、当時取引のなかった松本鋼機に対する未成工事支出金一七五万円が計上され、翌五一年三月三一日「重複計上につき戻し」として同額を雑収入として受け容れていることについて「被告人は右計上について指示をしたことはなく、事務の単純な誤りである旨供述するが、・・・事務担当者の単純な記帳上の誤りとは到底考えられず、被告人の指示により逋脱目的のもとに計上されたものと認めるのが相当である。」「なお仮に被告人が述べるとおり、右計上が事務の単純な誤りによるのであったとしても、後記「昭和五〇年度における未成工事支出金からの振替計上原価について」において説明するとおり、法人税逋脱の故意の成立には、申告所得を超える何がしかの所得が存することの概括的認識があれば足りると解すべきところ、被告人に右認識があったことは明らかであるから、いずれにしても故意の成立を否定することはできない」と判示している。

ところが右の判示は、前記松本鋼機に対して過って未成工事支出金を計上した人物の特定を欠く捜査ならびに公判立証を、こじつけの理論によって補おうとするものである。

松本鋼機に対する架空の未成工事支出金を計上した人物が、法人税逋脱の目的をもって故意に右計上処理したのか、あるいは単純な記帳上の誤りを犯したのかについては当該人物を特定した同人にこれを確かめる必要がある。ところが本件の捜査から公判立証ではその点が明らかにされていない。

刑罰の対象となる行為には、原則的に故意を必要とし、過失を罰するのは特定の場合に限られることは刑法の大原則である。

法人税のほ脱犯においても当然この原則が働くものであって、法人税法一五九条には過失を処罰する規定は存しない。

いわゆる概括的犯意においても、ほ脱行為の中心人物が、他の者のほ脱行為について具体的に知らなくても、申告所得を超える何がしかの所得が存することを認識するかぎり、他の者の行為についてもほ脱行為の責任を問い得るとなすものであって、他の者の行為が過失に基づく場合、もしくはそれが明らかでない場合にまでひっくるめて本人に刑事責任があるとするのは審理不盡を補うための拡大解釈であって、法人税法一五九条ならびに刑法の解釈を誤ったものであり、これによって事実を誤認したものである。

三、機械の購入代金による架空原価(原判示二)について

1.原判決別紙機具目録記載の物件は、いわゆる掘進機構に付随する消耗の著しいもので短期間に除却されるものであるから当初から消耗品として処理したものである。

このような処理は土木業界においては、多くの業者によって行われているところであって、永年にわたり暁建設株式会社の代表者をしていた野口佐治兵衛も「大型機械は日がかり工事として、工事別に償却していた」とまで証言しているのである。(原審第三四回公判)

2.かりにこれを減価償却資産として処理したとしても、破損による廃棄の際、除去損を計上することになるので、本件機具目録記載の物件を消耗品として処理したことを否認して減価償却資産として修正するならば、これに伴ってこれらの物件のうち昭和五〇年三月及び昭和五一年三月末に既に破損して存在しなくなった物件について除却損を計上しないで右機具の使用によって得られた収益のみを取り上げ、機具の損耗を無視すれば所得計算における費用、収益対応の原則に反することになって、被告会社に実体を超えた税負担を強いることになるのである。

3.さらに百歩譲って、原判決別紙機具目録記載の物件が減価償却資産に該当するとしても、

<4> ヘッドツメ(住友電工製) 八個 四四万円

<5> ハイテンションボルト 二〇本 三万円のうち

五本 七、五〇〇円

<6> スクリューパッキング 一〇枚 三、〇〇〇円のうち

五枚 一、五〇〇円

<7> ヘッド弁 七〇本 七、〇〇〇円のうち

六九本 六、九〇〇円

<8> ヘッドツメ 一四個 七万円

はいずれも破損取替え用の予備品として使用すべく購入したもので、原判決のいうように「一般の社会通念に従いその用途自体から客観的に判断し」たとしても、これをもって到底一体としての機構を構成する減価償却資産とは認め難いばかりでなく、その取得価額が一〇万円に満たない右の物件は法人税法施行令一三三条の「少額の減価償却資産の取得価額の損金算入」の規定に該当するものであるから、被告会社が損金として処理したことに何ら不正はなく、この点における原判決の事実誤認は明らかである。(なお、原判決別紙目録記載の物件について、昭和五〇年三月三一日及び昭和五一年三月三一日における除却の状況については控訴審で立証する。)

四、減価償却(原判示三)について

原判決は、弁護人の

1.昭和五〇年三月期 六、二三四、一五四円

2.昭和五一年三月期 七、六〇一、〇一七円

を減価償却費として損金算入すべきであるとの主張を、法人の簿外資産については減価償却が認められないとして排斥した。

しかし右の判断は誤っている。

その理由は追って補充する。

五、役員報酬(原判示四)について

原判決は、弁護人の

1.昭和五〇年三月期 七、一一〇、〇〇〇円

2.昭和五一年三月期 九、四七九、九九四円

を使用人兼務役員に対する賞与として損金算入すべきであるとの主張を、簿外支給分については損金算入が認められないとして排斥した。

しかし右の判断は誤っている。

その理由についても追って補充する。

六、交際接待費(原判示五)について

1.完成工事原価組入れ主張分

(一) 雑費組入れ主張分(原判示五の1の(二))

原判決は右主張のうち

<3> 昭和49・12・26 四五万円

<4> 同 49・12・28 四〇万円

<5> 同 50・3・29 三〇万円

<6> 同 50・8・13 一二五万円

<8> 同 50 12・22 二〇八万円

について、<3><4><6><8>は日本鋼管工事の従業員に、<5>は吉村建設の従業員に支払われた事実を認めながら支払が中元歳暮の時期においてなされたこと、支払金額の具体的計算根拠が不明であること、アルバイトの報酬としては極めて高額であることを挙げ、取引先の関係者に対する贈答等のために支出されたものと推認できるから、雑費には該当せず交際接待費に該当するというのである。

しかしながら原審証人田中照敏(第三二回」及び同桝本安蔵(第三三回)の各証言及び被告人の供述によればいずれも日本鋼管工事又は吉村建設の現場監督として、被告会社が右各社から下請けした工事現場において、被告会社の現場監督の人手が足らなかったので度々その代行をしていたこと、被告人は右の労務提供に対する報酬の意味で前記主張のように現金を支払ったものであることが認められ、もし右の労務の提供が行われていなかったら、被告会社としては下請契約に則り、別に現場監督を雇い入れて配置するか、受注量を減少して調節しなければならなかったものである。

原判決のいうように取引先の関係者に対する贈答であれば特定の個人だけに支払う必要はないばかりでなく、抑々贈答というのは具体的な対価としてではなく抽象的な儀礼として一方的に贈与するものであって、被告会社では右とは別個に田中・桝本らに対して中元又は歳暮として儀礼として相応の品物を贈与しているのであるから、前記現金が偶々八月、一二月にその支払がなされたとしても(<5>は三月)それが中元又は歳暮の贈答に該当するものではなく、またそれが具体的計算によって算出した資料がなく、一見高額のように思われるとしても被告会社としては別に現場監督を雇い入れて夜間等の勤務に配置するのに要する費用を考え、それより少額であることを念頭において支払っているのであるから採算の上においても十分に意味があるのである。

そして、支払を受けた相手方がこの分につき所得税の申告をするかしないかによって、被告会社にとって当然雑費となるものが交際接待費に変質するいわれは毫も存しない。

収税官吏は、徴税成績を挙げるための右のような場合、交際接待費として損金に計上したうえ、交際接待費の限度額超過として益金に転換する手法(雑費であればそれができない。)をよく用いるのである。

原判決はこの手法に引きずられた感なしとしない。

要するに原判決は、対価性を帯びた支払と一方的な贈答との区別を没却して雑費組入れの主張を排斥して交際接待費と認定し、事実誤認に陥ったものである。

(二) 会議費組入れ主張分(原判示五の1の(二))

原判決は右主張のうち

<4> 昭和49・8・5 五一、四四〇円

<5> 同 二一、〇〇〇円

<6> 昭和49・8・16 二〇一、二五五円

<6> 昭和49・11・13 二六、五〇〇円

<8> 同 一一〇、一一七円

<9> 昭和49・12・26 四三、〇〇〇円

<10> 同 二四、一三五円

<11> 昭和50・2・8 二七、四九〇円

<13> 同 二七、四九〇円

<16> 昭和50・3・22 五八、二九五円

<17> 同 一一七、四三八円

<18> 昭和50・4・8 七八、六〇〇円

<19> 昭和50・4・26 七一、六九二円

<20> 昭和50・4・28 二一、一七五円

<22> 昭和50・5・23 四六、一三〇円

<23> 同 三八、二五〇円

<24> 同 一九四、六〇〇円

<25> 昭和50・6・26 一八、三〇〇円

<26> 昭和50・7・1 六二、〇〇〇円

<27> 同 二二、四〇〇円

<28> 同 一四八、八四一円

<30> 昭和50・8・13 三五、二九〇円

<31> 同 六七、二三九円

<34> 昭和50・10・15 六三、三七六円

<35> 昭和50・10・23 二九、二八〇円

<37> 昭和50・11・11 七二、〇〇〇円

<38> 同 二六、四三八円

<39> 昭和50・12・22 二三三、五〇〇円

<41> 昭和51・1・24 一六、七〇〇円

<42> 昭和51・3・16 五六、一一〇円

については、得意先の接待マージャン等の費用・飲食店への接待費用であるから会議費に該当するものではなく、交際接待費に該当する旨認定判示している。

しかしながらこれらの飲食等はいずれも業務に関する打合せをなした際の飲食であり、しかもその内容は通常一般に会議の後の飲食として常識の程度を逸脱したものではないからこれを会議費として認定することが至当である。

原判決は右の点において事実誤認がある。

2.一般管理費組入れ主張分

(一) 福利厚生費組入れ主張分(原判示五の2の(一))

原判決は右の主張のうち

<2> 昭和50・6・11 四四、六九〇円

<3> 昭和50・6・20 一〇、〇〇〇円

<4> 昭和50・6・22 七五〇、〇〇〇円

<5> 同 二二、〇〇〇円

<6> 同 一八、七四〇円

<7> 昭和50・6・22 一一四、七三〇円

<8> 昭和50・6・24 二四、〇〇〇円

<9> 昭和50・6・20 二六〇、〇〇〇円

昭和50・6・27

<10> 昭和50・6・30 八、二六〇円

<11> 昭和50・7・3 一四九、八四〇円

<12> 昭和50・7・9 五一、〇〇〇円

について、福利厚生費ではなく、交際接待費である旨認定判示しているが、その費途を詳しく検討するときは、いずれも従業員の人間関係を良くし、志気を高め、もって従業員の効率的な働きによって、会社業務の円滑な進行を目的として支出されたものであると認められるから、福利厚生費として認定さるべきものであり、この点において原判決は事実を誤認したものである。

(二) 旅費交通費組入れ主張分(原判示五の2の(二))

原判決は、昭和五〇年九月三〇日、田中タクシー代金一六、〇〇〇円を交通費ではなく、交際接待費であると認定している。

しかし、右は被告会社の滋賀出張所が、同所で使用するタクシーを同所長の妻の経営する飲食店のチケットを借用して使用していた立替金の月末清算分であって、同所の交通費であるから原判決は右事実を誤認している。

(三) 諸会費組入れ主張分(原判示五の2の(三))

原判決は右主張のうち

<2> 昭49・10・25 二〇〇、〇〇〇円

<6> 昭50・2・26 二〇〇、〇〇〇円

<8> 昭50・4・5 一六九、〇〇〇円

<9> 昭50・7・18 一〇〇、〇〇〇円

<11> 昭50・8・13 九六、五〇〇円

は諸会費に該当せず、交際接待費に該当する旨認定判示している。

しかしながら、これらはいずれも被告会社の業務に直接関係のある竹公会・建設協会・竹中事務所・水公会・十日会の会合等の会費、参加費用等であって、単なる交際接待費ではない。

これらの会合の観光地で行われたとの理由によって会議費に該当しないとする原判決は業界の実体を把握しないことによって事実を誤認したものである。

七、貸付金(原判示六)

1.原判決は、

<1> 昭和49・12・23 五〇〇、〇〇〇円

<2> 同 50・3・22 一、〇〇〇、〇〇〇円

<3> 同 50・8・13 五〇、〇〇〇円

<4> 同 50・12・22 一〇〇、〇〇〇円

<5> 同 51・2・28 一、五〇〇、〇〇〇円

については、いずれも貸付金であるとの検察官の主張に対し、<1><3><4>は野口佐治兵衛に対する交際接待費であり、<2><5>は検察官主張どおり貸付金であると認定判示した。

2.しかしなから、野口は、元暁建設(株)の代表取締役であったが、同社が被告会社に買収された後会長の職にあって、その報酬は当然のことながら、右暁建設(株)から支払われていたのである。

前記<1><3><4>の三回に亘る被告会社から野口に対する支払合計二〇万円は、右暁建設(株)が橋梁工事に優れた技術を有していたことから、被告会社がこれを買収したのであるが、買収後被告会社が施工した橋梁工事等(例えば大台ケ原)について、永年にわたるすぐれた知識と経験を有している右野口から技術・工事施工について相談に乗ってもらったり現地へ来てもらって直接指導を受けたりしたので、そのことに対する報酬として簿外資金の中から支払ったものである。従って右二〇万円については検察官主張のような貸借として契約(返済・利息支払を含めて)がある筈はない。又原判決は中元・歳暮時に金一封として処理しているので野口に対する謝礼として盆暮に持参したものと推認するのが相当であると判示するが、被告会社は当時野口に対して中元・歳暮はそれぞれ礼儀として相応の品物を贈っており、さらにいわゆる儀礼的な祝言・歳暮としての金額にふさわしくない現金五万円ないし一〇万円を一方的に贈るべき理由は全くなく、右は盆暮の時期に相談料・指導料(実質はあくまで報酬)として常識的に適当と思われる金額を支払ったものである。

両者間において事前に報酬契約がないのに届けられているところから報酬でないとするのは極めて短絡的な推認であって、右金員を届けられた野口が右に述べたような理解のもとに受領すれば、その段階で報酬契約が成立し履行がなされたものと解すべく、このような社会事象は到るところに存するものである。

原判決は、いみじくも「野口に対する謝礼として」と判示しているのであって、反面社会的儀礼としての中元・歳暮と異なる理解をしている表現方法をも判断の中に混在させているのである。

3.前記<2>及び<5>の合計二五〇万円は光映技術の渡辺光に対して戸田建設発注の木更津区画整理事業工事を請負うことについて仲介者の斡旋料として支払ったもので、右金額は当然営業費として認定さるべきものであって、被告会社は右工事を受注することはできなかったが、その後、戸田建設・大林組・東急建設のジョイントベンチャーによる神戸市のポートアイランドの工事を受注している。

渡辺の光映技術は戸田建設が請負った前記木更津区画整理事業(公共事業)の設計監理を行っていたもので、このような業者が特別の地位を利用して手元にある設計図を被告会社に渡し、戸田建設の下請をさせるための斡旋をしてその報酬を稼ぐといういわゆる建設ブローカー的仕事を副弐的に行ったわけで、被告会社から受取った総合計五〇〇万円は当然やり切り貰い切りのものではあるが、その性格上、設計管理業者として公表上収入として受入れることができないことは常識上明らかである。

このような状況下において、被告会社が査察調査を受け合計五〇〇万円の授受の事実が表面下化し、これを公表上収入として受入れていない光映技術としては、収入除外として税の更正を受けなければならなくなり、以後公共団体からの指名・停止等により設計管理の受注にも影響することになるから、右五〇〇万円は借り入れ金、あるいは預り金であったと必死に強弁して公表に計上しなかった理由に正当づけようとするのは自然の成り行きである。

換言すれば、右五〇〇万円は被告会社にとって斡旋料として支払ったものであれば営業経費(損金)になるが、光映技術にとっては収入(益金)となるのである。

税法違反事件では、このような利害対立を生ずる場合が多く、単に一方の真剣な顔つきによる供述を信用してこれを真相としてしまうことは危険である。

建設業者は、一般管理費の中に注文をとるための営業活動費についてかなり高率の予算を組んでいるのが通常であって、被告会社が支払ったような性格の金員について貸付金とか預け金で処理しているところはない。

本件においても五〇〇万円は渡した時点では後日返還を求めるような性質の金ではない。それが業界の常識である。

只本件において、受注できなかったことによる返還の話しが出たとすれば、それは後日受注できなかったことを理由に交渉が行われ、その時点において新たに発生した債権債務の関係であって、このことが遡って当初営業費として支払われた五〇〇万円の性格を貸付金とか預け金に変化せしめるものではない。

八、完成工事高(原判示七)について

1.原判決は弁護人の

(一) 検察官は、被告会社が(株)日本基礎から受注した工事につき、支払を受けた工事代金二六四〇万円を完成工事高の収入除外とし、その工事費として、完成工事原価金二五、四五四、三一一円を算入し、その差額金九四五、六八九円が犯則所得であると主張する。本件工事は昭和五〇年度において完成しておらず、完成工事高とはならず、したがって、その差額は、右年度における所得とはならない。

(二) 右工事は、同五〇年八月二五日受注、契約代金三三五〇万円支払方法毎月二〇日出来高締、翌月二八日払、工期同年九月一五日という指定であった(弁第六号証の一)。

右工事の内容は藤沢駅前の都市再開発事業のうち、旧建物を移転・取毀し等をした跡地を建築物等を建てるための掘削をした地下部分に破壊防止のためパイルを埋め、土留をする工事である。したがって被告会社の工事は、地下部分の掘削が終了するころから始まる。ところが、旧建物の解体、あるいは立退問題の未解決等、被告会社の工事の着工が遅れ、また同年一二月には一時工事中断の状態に陥った。翌年三月末ごろ立退問題が進展し工事再開が可能となったところ、そのころ(三月二〇日)日本基礎が倒産した。同社の倒産のため、被告会社は、工事の進行を一時停止して、工事再開に備えて、機械と現地採用人員のみを残して監督を派遣して現場の保持と監視態勢の状況で工事を中断し、同五一年五月ごろ、最終的に機械と人員を引揚げた。(被告人の公判廷における供述第二回一六ないし三二丁)。被告会社は、工事を完成していないばかりか、引渡もしていない。右のことは、右工事代として授受された手形の内訳からも窺える。契約上の竣工引渡期である同五〇年九月一五日を経過した同年一二月一〇日金一三〇万円、同月金五〇〇万円、同五一年一月二九日金六六〇万円、同年三月二三日(手形不渡後)金一一三〇万円の手形が授受されている(なお、金二二〇万円は日本基礎の立替金と相殺されているが、その時期は不明である。(検二一号、問九)。その支払額合計二六四〇万円は、請負代金額に金七一〇万円不足する。

被告会社は同五〇年一二月ごろから、立退問題の遅れで工事を中断させられ、再開可能時には、日本基礎の手形不渡という事態にあい、同年一二月ごろから事実上工事の中断状態にあり、そのころの三月二三日、最終の支払を受けているのであるから、最終支払日の支払に対応する工事出来高は同五〇年一二月ごろのそれである。同五一年三月末当時工事が完成していないことは明らかである。本件の如く、工事の完成、引渡、したがって代金完済のないまま工事を放棄した場合、既工事高を完成工事高として計上すべき時期は、請負人が工事を放棄したことが主観的のみならず客観的にも明らかな状態となったときというべきである。而して、本件においてその時期は、被告会社が機械、人員を全て引き揚げた同五一年五月ごろである。

なる主張に対し、

請負による収益の帰属の時期に関して、請負による収益の額は、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあっては、その約した役務の全部を完了した日の属する事業年度の益金の額に算入するのが原則であるけれども、事業年度内に契約の一部が未完成であった場合でも、契約に従って、既に完成された部分について、出来高により代金が債権として確定している場合には、その限度において右確定した代金が同事業年度の益金に帰属すると解す

旨判示して右主張を排斥した。

2.およそ出来高払いというのは、工事の進行度を割り出し、これによって暫定的に代金の内払いをなすものであって、実質上仮払金であり、後日工事の完成もしくは中途解約の際、精算がなされるべき性質のものである。

施主にとっては、出来高払いの未完成のものについて、その部分の引渡を受けたとしても一体の工事の場合全く用をなさないわけである。

本件工事は物の引渡を要する請負契約で、しかも掘削した地下部分のパイル埋め及び土留めという社会通念上一体をなすと見なされる工事であって、その目的物の全部を完成してこそ本来の用途に供し得るものであるから、すべて完成によって相手方に引渡した日をもって収益帰属の時期となすのが当然であって、例えば基礎工事と本体工事を一括受注し、基礎工事部分は完成し、その出来高払いを受けたというような性格の工事とは全く異質なものである。

従って原判決が全体として未完成の本件工事につき出来高払いを受けた部分を完成として、その完成部分について代金が債権として確定したとするのは明らかに事実を誤認したものである。

九、完成工事原価(原判示八)について

1.右につき原判決は次のように判示している。

弁護人は、暁建設の決算期である昭和五〇年七月三一日及び被告会社の決算期である同五一年三月三一日の二回にわたり、城陽幹線今池など合計一五件の工事につき、実際は被告会社がその下請を使用して施工したにもかかわらず、被告会社が暁建設に発注し、同社が施工したように操作した点については、この業界において、工事受注者の工事能力、業者間の利益分配、業者の成績をたかめる等種々の事情から受注工事を外注形式を利用して廻し会ったり、あるいは合同受注したりして、形式と実際の工事者が異なることが広く行われており、本件において、被告人は当時暁建設の経営状態が悪く、工事受注能力が低下していたため経理状態をよくして信用をたかめ、工事受注能力をたかめるために、また一方暁建設買収後、同社所有の機械等を被告会社において無償で使用していたため、その代償の意味もあったためであって、ほ脱の故意はなかった旨主張するので判断する。

高田利一(二通、検第一五号及び第一六号)及び被告人(二通検第一二七号及び第一二八号)の検察官に対する各供述調書、証人高田利一に対する当裁判所の尋問調書(昭和五六年一月二七日施行分)、第二九回公判調書中の証人山本良次の供述部分、第三〇回公判調書中の証人足立誠治(足達誠治の誤記と思われる)の供述部分、第三四回公判調書中の証人野口佐治兵衛の供述部分並びに第三八回公判調書中の被告人の供述部分によれば、被告人は昭和四五年七月ころ橋梁専門の会社である暁建設を買収したが、その当時同社は相当数の建設機械等を所有していたこと、その後暁建設が保有していた機械等は被告会社の機械等とともに一括して保管されるようになったこと、被告会社において右建設機械等を使用しても暁建設に賃借料を支払ったことはないこと、前記操作に際して、実際の完成工事原価合計六億五八八一万六六九八円に二二六八万三三〇二円を上積みして合計六億八一五〇万円で暁建設に発注したように経理処理したこと、そのため右上積分だけ、被告会社の利益が暁建設に振替えられた形になったこと、右操作当時両会社の社長は被告人であったこと、被告会社は利益を計上していたが、暁建設は繰越欠損の状態にあったことが認められる。

右認定事実を前提に検討するに被告会社は暁建設の建設機械等を使用しながら、その賃借料を支払っていなかったが、それは賃料の額等についての具体的な定めがなかった結果に基づくものであり、さらに弁護人主張の清算の具体的根拠も明らかではないことからすれば、右清算の主張をもって本件操作を正当化することはできないし、また右操作が暁建設の受注能力増強のため、その売上高を大きく見せかける必要からなされたものであるとしても、両会社の関係、経営状態、被告会社から暁建設への利益の振替処理がなされていることなどからして、ほ脱の故意があったものと言うべきである(なお仮にそうでないとしても、後記「昭和五〇年度分における未成工事支出金からの振替計上原価について」において説明するとおり、法人税ほ脱犯の故意の成立には、申告所得を超える何がしかの所得が存することの概括的認識があれば足りると解すべきであるところ、被告人に右認識があったことは明らかであるから、いずれにしても故意の成立を否定することはできない)。

2.原判決は、いわゆる親会社と子会社との間の利益調節のために行われ或いは公の競争入札の指名に加わることの多い建設業者が指名資格を維持し、或いは獲得するために行われる経理操作が一般にどのようにしてなされているかについて認識を欠くものである。

かような操作は、被告会社のみでなく、他社において広く一般に何ら疑問なく行われていることは、かつて税務署勤務の経験を有し、税理士の業務に携っている原審証人足達誠治の述べるとおりである。

被告会社の所得のみに目を向けるとその所得を子会社に振替えることは被告会社の法人税を軽減することになろうが、他方において子会社の利益が増加することになるので、仮に子会社が欠損の状況であっても青色申告にかかる繰越欠損金額が減少することにあるから、全体から見れば法人税の逋脱となるものではない。

被告会社の所得を軽減させる点だけに目を奪われ被告会社の法人税逋脱に結びつけるのは明らかな誤りである。

従ってかかる行為に対して概括的犯意の理論を適用する余地も存しない。

なお、被告会社及び暁建設の代表者を兼ねる被告人が、被告会社より暁建設に支払うべき建設機械等の賃借料の意味も含めて利益操作を行うようなことは、親会社と子会社との間において一般に行われているところで法人税の逋脱犯を構成するものではない。

原判決の事実誤認は明らかである。

一〇、昭和五〇年分未成工事支出金からの振替計上(原判示九)について

1.右につき原判決は次のように判示している。

弁護人は、工事番号五〇八三三の工事につき一〇〇万円、同五〇一四の工事につき二五〇万円各工事原価が過大に計上されているのは、経理担当者の記帳の誤りによるものであって、ほ脱の故意はなかった旨主張するので判断する。

佐野市郎の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第二三号)によれば、被告会社は、昭和五〇年四月以降会計帳簿を作成するのにコンピューターを利用するようになったが、同五一年三月期の決算に際して、コンピューターで処理していては時間的に間に合わなかったため、未成工事支出金の期末整理と完成工事原価の振替処理などを手書きにより行ない、手書きの決算書を作成したが、その後正規にコンピューターにより試算表などを作成していて、右五〇八三三、五〇一四の工事について実際工事原価以上の金額を完成工事原価としていることが判明したものの、これを訂正せず、同月末現在未完成である工事原価の一部を右工事原価に振替える経理操作をなして、手書きによる右決算書の決算額に合うようにしたことが認められ、右事実によれば、右工事原価の過大計上は、被告会社の経理担当者の過誤によるものと言うことができる。

ところで、法人税ほ脱犯の故意の成立があるというためには、申告所得を超える何がしかの所得が存することを概括的に認識すれば足り、個々の勘定科目、会計的事実の認識は、所得算出の手続上必要なものであるが、それ自体個々的な故意の内容をなすものではなく、従って、右概括的認識があれば、正当税額全体について故意が及び、一部の勘定科目について脱ろうないし架空計上の認識がなかったことなどは情状に影響を及ぼすことはあっても、犯罪の成否には関係がないと解すべきであるから、右認定のような理由で、右工事原価の過大計上分の故意を否定することはできない。

2.しかしながら、原判決も認めている。右「経理担当者の過誤」はあくまで過失であって、法人税逋脱の犯意を有するものではない。

本件法人税逋脱の行為者として訴追されている被告人において、申告所得を超える何がしかの所得が存することを概括的に認識していたことは争いはない。

従ってこのような場合、もし経理担当者が被告人の不知の間に法人税逋脱を目的とする不正行為を行ったような場合にも被告人に概括的犯意ありとして刑責を問わんとするのが概括的犯意論であると理解する。

しかし本件では、前述のように経理担当者に過誤があるだけで犯意は存しないのである。

抑々被告人と経理担当者との間に、共謀共同正犯の関係もなく、共同加巧の関係もないのに他人の行為をもって被告人の刑責を問わんとする概括的犯意論には、多大の疑問が抱かれるのに、さらに進んで経理担当者の過失行為についてまで被告人に犯意の成立を認め、その刑責を問わんとする原判決の判断は刑法三八条一項に違反し、もって事実を誤認したものである。

一一、原判決には以上の各項で述べた諸点において法令の違反ないし事実の誤認があり、それらが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

第二点 原判決には、判決に影響を及ぼすべき訴訟手続の法令違反がある。

一、原判決は、罪となるべき事実判示第二に関して別紙修正損益計算書(自・昭和五〇年四月一日、至・昭和五一年三月三一日)によって、各勘定科目について公表金額・当期増減金額・差引修正金額を明らかにした。

右勘定科目のうち租税効果は、

公表金額 五、〇二三、三八〇円

当期増減金額 一五、四七四、〇〇〇円

差引修正金額 二〇、四九七、三八〇円

である。

二、ところが、検察官の冒頭陳述書別紙修正損益計算書(自・昭和五〇年四月一日、至昭和五一年三月三一日)の租税公課の勘定科目では、

公表金額 五、〇二三、三八〇円

当期増減金額(内犯則金額も同額)一五、九五三、四〇〇円

差引修正金額 二〇、九七六、七八〇円

となっているから、原判決は検察官の主張よりも借方(損金)において四七九、四〇〇円を減額して被告人に不利益に認定しているのである。

三、右のような場合、原審は須らく検察官に対し訴因変更を命じ、他方弁護人及び被告人にこれに対応した防禦の方法を講ぜしめるべきであるのにその措置をとらなかったのみか、判決において検察官の起訴額よりも被告人らにとって不利益に認定した理由を全く示していないのである。

このことは明らかに刑訴法三一二条二項・四四条一項に違反するものであって、右違反は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

第三点 原判決の量刑は不当に重い。

一、被告人の経歴・環境・性格等

被告人は、昭和九年一月六日、福島県下において出生し、昭和二五年三月、中学校を卒業後、酒屋の住込店員・運送店員を経て鉄工所及び建設業等に次々と勤務し、その間幾多の辛酸を嘗め、これらに真剣に取組んで獲得した豊富な経験をもとに、昭和四〇年六月、資本金一〇〇万円(現在四五〇〇万円)の被告会社を設立してその代表取締役となり、途中、本件査察調査に次いで行われた起訴処分により一時倒産の危機に陥ったが、懸命の努力によって危機を脱し、漸く今日に至ったものである。

被告人の家族には、

妻 千鶴子(昭和九年生)

長男 光 男(昭和四三年生)大学受験準備中

長女 好 美(昭和四五年生)高校在学中

が居り、円満な家庭生活を営んでいる。

被告人は、業務に対し極めて熱心であり、私事をもって社業をおろそかにするようなことは全然なく、率先垂範、全身全霊をこめて只管被告会社の発展に努力し、社員も又全力を傾注してこれに協力したため、今日まで隆昌の道を歩んで来たものであり、被告人の性格は、勤勉であるとともに土建業者の特徴とも言える親分肌のところもあり、元請業者からも下請業者からも絶大の信用を得ているものである。

二、本件査察とその影響

被告人は、さしたる学歴もないまま前記のようにいわゆる実社会の荒波の中で鍛え上げ、従業員約一〇〇名(本件査察当時)を擁する中小企業の代表者となったものであるが、さらに事業の拡大、機械設備の充実、優秀な従業員の揃った企業を実現したいため、本件逋脱犯を犯したもので、本来経理の知識がなく、自らは受注活動と現場の巡回に忙殺されたため、経理担当者任せで連絡も不十分なところから、公表に計上すれば当然必要経費として認められるような支出を裏金で処理したり、公表で収入を計上しながら、これに関連する二〇〇〇万円に及ぶ高額の支出を裏金で処理する等、本来裏金の口座を設けた目的に反するような幼稚な処理も見受けられる。又経理担当者の事務処理が杜撰であるため、架空外注費の中には、名義のみの架空のものと名実ともに架空のものとの区別が明確にできず、被告人自身も査察の当初「架空外注費は私が下請から出て来た請求書を見ればわかります。」(昭和五一年一〇月六日付質問てん末書一三問答)と述べていたが、その後、請求書綴や工事未払金台帳等の現場を示して尋ねられても明確な答えができなかったくらいである。

その後同年一〇月一九日に至り、押収もれになっていた金銭出納帳二冊について被告人が足達税理士の忠告により査察官に提出する処置をとり査察調査に協力したため、逐次本件の真相が明らかになって来たのである。

当時の被告会社の受注工事の大半は、大阪ガス→日本鋼管→日本鋼管工事のルートによるものであって、被告人が最も恐れたのは本件査察を知った日本鋼管工事から取引停止の処分を受けることであってその場合には倒産は避けられなかったからである。

そのため査察段階の後半では一刻も早く調査が終わることのみが念頭にあって、質問てん末書の供述要旨は査察官の誤導質問をそのまま肯定している部分もかなり存する。

日本鋼管工事の方では、査察調査を受けるような会社とは以後一切取引を停止するのが建て前であったが、被告人の人柄と仕事に対する平素からの信頼により、同社幹部ならびに現場の者から同情が寄せられ、一部取引の継続が認められたがその受注量は激減し、またマスコミの報道により他の受注も同様激減したので、本店の土地建物の売却処分、従業員の大量整理(三分の一に減少)等を行わざるを得なかったのである。

因みに瓦斯工事部門の完成工事高は、昭和五〇年度五億六二七六万円に対し、昭和五三年度は一億二三一四万円という激減ぶりであった。

然しながら法を犯したことを直に反省した被告人は本件査察を経験に鑑み再び違反を繰り返さないために、効率の高い優秀な機械を整備することに努力を結集して鋭意業績の回復を図るとともに、すべてのことに優先して所得額の平均八三パーセントにも及ぶ国税地方税の納付をなし、最近に至って漸く被告会社を元の姿に戻すことができるようになった。

それでも日本鋼管工事からの発注量は、本件査察時の約三〇パーセントに押さえられた後遺症は今なお癒えず、本件査察によって被告人は十二分の社会的制裁を受けて来たと言えるのである。

三、原判決の量刑

1.原判決は、検察官の起訴所得額に対し

訴因第一関係で 三九二、五三八円

訴因第二関係で 三、九九五、四二三円

を減額認定したうえ、被告会社を罰金一三〇〇万円(求刑二〇〇〇万円)被告人佐藤を懲役一年、二年間執行猶予(求刑一年)に処した。

しかしながら右の量刑は前記一及び二で述べた事情及び以下述べる理由に鑑みると不当に重い。

2.建設業法による許可取消について

被告会社は、建設大臣の許可を受けて建設業を営む法人で、被告人はその代表取締役である。

ところで建設業法二九条は、

建設大臣又は都道府県知事は、その許可を受けた建設業者が次の各号の一に該当するときは、当該建設業者の許可を取り消さなければならない。

と規定したうえ、同条二号には、

第八条第一号又は第五号から第八号まで(第十七条において準用する場合を含む)のいずれかに該当すによ至った場合

を掲げている。

而して第八条には、

第五号「一年以上の懲役若しくは禁錮以上の刑に処せられ、又はこの法律の規定により、若しくは建設工事の施工若しくは建設工事に従事する労務者の使用に関する法令の規定で政令で定めるものにより罰金以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者。」

第七号「法人でその役員又は政令で定める使用人のうち、第一号第二号、第四号又は第五号に該当する者のあるもの。」

と規定されているから、もし本判決がそのまま確定すれば、被告会社は覊束処分により建設業法の許可を当然に取消され、その結果会社の生命を断たれることになるのである。

従ってこの点において、被告人が懲役一年に処せられるか一年未満の刑に処せられるかは被告会社の生死が分かれる重大な問題となるのである。

即ち前者が選ばれるときは執行猶予期間の長短に拘らず、被告会社及び被告人にとって過酷な刑となるのである。

あるいは、本判決確定前に被告人が被告会社の代表取締役を辞任して建設業の許可取消を免れる方法が考えられるが、被告会社は被告人によってのみ運営でき、余人を以てしては替え難いばかりでなく、被告人六一年七月三一日現在における被告会社の銀行借入金の総額は、一二億六〇〇〇万円余の巨額に達し、右借入金全額につき被告人が個人で連帯保証しているので、もし被告人佐藤が役員を辞任するようなことになれば、金融機関は貸付金の即時返済を求め借入れの継続は不可能となるので、右のような方法をとることはできない。

従って右の事情を御斟酌のうえ被告会社が存続できるよう是非共御救済をお願いする次第である。

3.本件犯罪の状況

本件は、刑の変更前の旧法人税法施行当時の事犯であり、第一審のの審理に長期間を要したのは、争点が多岐に亘ったからである。

本件では、原審において犯則所得として認定されることについて争っている点が他の事案に比して極めて多い。

又交際接待費・寄附金などとして損金性を認めながら、かなり多額の限度額超過分を犯則所得として処理している点においても本件の特質が見出される。

ところで、被告会社の収益の一部は右限度額超過の交際接待費・簿外機械の活用・使用人役員に対する簿外給与等によって産み出されていることは何人も否定できないところである。

いわゆる費用・収益対応の原則は当然この面にも働いているのである。

従って交際接待費の限度額を超過した分について、必要経費と認めず、機械を簿外にしていて減価償却の処理をしなかったからといって償却を認めず、あるいは使用人役員に対する給与を公表に計上せず簿外で処理しているから必要経費として認めないとして、他方その対応として産み出されている収入についてはそのまますべてを益金として取扱うことは、税収をより多く確保するための手法にほかならず、客観的に見たときは費用収益対応によって実現される筈の企業経理の実体と反するものであることは言うまでもない。

そしてこのような納税者にとって不利な手法は、次々と新しく編み出されているのが、最近における税法運用の傾向であるようと思料される。

ところでこれらが、損金性を否定され課税対象とされることは、税法という特殊な法体制下においてはまだ止むをえないとしても、それが刑罰分野においても右へ準えの方向でこれに追随し、従来課税の対象ではあるが犯則所得として取扱われていなかったものまで犯則所得に加えられていく傾向にあるのは、如何なるものであろうかと疑問が抱かれるのである。(例えば青色申告取消益を犯則所得とすること)

なるほど租税の逋脱を図ることは悪いことは相違ない。

しかしながら刑罰権の発動の面においては、刑事法に主体をおいた慎重な解釈処理がなされなけれはならない。

これを量刑の面から眺めても、本件では前述のように実質的に収益を産み出している多額の必要経費が損金として認められないばかりか、犯則所得として取扱われているのであるから、単純に逋脱率を割り出して悪質であると評価して量刑がなされるべきでない。

本件は、他の逋脱事犯のように損益計算書によって算出された所得が、社内に留保されないで、損金と認められない経費に使われてしまっているので、貸借対照表の上では、損益計算書によって算出された所得に見合う有形資産を把握することができない。

換言すればP/LとB/Sとの間に、他に類例をみないような多額の不突合が存するのである。

以上の諸点からみても原判決の量刑は重きに失する。

以上の諸理由により原判決を破棄し、さらに相当の御裁判を仰ぎたく本件控訴に及んだ次第である。

以上

なお、本件記録は膨大で、現在なお謄写未了の証拠物があるのでその謄写を終え、さらに検察官手持の証拠物(例えば総勘定元帳)の開示を得たうえ控訴趣意を補充したい所存であります。

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